2月28日月曜日 バルセロナ最後の食事は AGUT で。

 

  昨夜は最後の夜なので、ゆっくり寝よう(早く寝よう)と思ったのに、ひとつアクシデントがあったので手間取ってしまった。

 

  大きい方のモロッコスツールをシーツにくるんでしまおうとしたら、羽の生えた、クミンシードに似た虫がたくさん出てきたのだ。この虫はスツールの裏に当て布として貼ってあるもののうちウール100%のもののみを好んで食べているようであった。幸い皮を食べる虫でなかったので、スツールとしての機能に支障はないとは思うが。とにかくよくぞ食べた、と言うほど頑張って食べてある。ウール布と皮との間には糸の他に接着剤も使ってあるが、もうある部分ではこれが全く効いていない。ズタズタであった。もう夜も遅いというのに、ドアの外に出てパンパンはたき、虫で追い出した。

 

  けれども、知らぬ間に薫のシェットランドセーターにまでついているのであった。こんなことがあったので、起床の時間を9:00にずらした。15分すぎ頃起きる。スペインのこのアパートで、最後の朝食をいつものようにする。相も変わらずトスターダとCCL、その後薫は主に台所を、くるみは風呂場や床掃除をした。この時既に11時。これからまたスツールをしまおうと思い、くるみが(薫がやるのをひどく嫌がるので)手でパンパンはたき、よく見たら布の裏、まだ破れていないところにもたくさん虫のサナギがいるのであった。布を切り取って薫が買ってきた防虫剤を入れてしまう。やっとのことで全ての掃除が終わり、おっさんに言いにゆく。

 

  おっさんは紙にさらさらと少し気取った人の書く文字で項目を書きつけ、値段を書き保証金から差し引いた。4350ptsのみもらう。12時も30分を回ったので、あわててMetroに乗りカタルーニャBANCOにゆき、両替。フィアンサの返金が思いの外少なかったので、全てフランスフランにする。この後、他々の項目の意味及び金額が理解できぬのでCameliesに戻る。

 

 我々が「エイジェンシーはフィアンサを全て返してくれると言った」と言うと、おっさんは二人に睨みをきかせ(たつもりで)、先ほどの紙を持ってき、興奮してどもりながら語気激しく説明し、「4350ptsを返してくれ、そしてエイジェンシーに言って返してもらったらいい」と言った。おっさんの声は震え、どもり、泣きそうに甲高い声であった。しかし、我々は金を返してしまったので、ptsが足らず返せないと言うと、「4350ptsは私の金だ」と言って紙にサインまでして「エイジェンシーに言って、これも返してもらってくれ」と言った。少し考えたのち妥当だろうという結論に達し、「わかったから」と言い謝った。おっさんは両手を広げて歩いて行きながら「いい、いい、誰もが皆私にいろいろなことを質問する」と言った

 

  。MetroにてJAIMEIまでゆき、AGUTヘ。既に客は満杯で2階の待合所で少し待たされたが、ようやく席につくことができた。今日はドアを入って正面奥の部屋の右手席。ここにもたくさんの絵やら絵皿が飾ってある。どれも地味な渋いもので、それが陰気になりすぎていないのは、この店のモダンな作りと釣り合っているからである。また、若い人を多く起用しているのも成功していると言えるだろう。

  薫はconsome con yama(卵黄入りコンソメ)parillada dos salsas(焼きもの 2つのソース)を頼み、くるみはsopa de brou(パスタ入りスープ)entrecot buey(牛のステーキ)。今日はパエージャもソパデペスカドもない。スープはどちらもさっぱりしてあっけない。くるみのにはショートパスタと人参少々入っていた。パンは柔いが酢の匂いがするので参った。また、海産物の焼きものは、大正えび、長いはさみつきエビ、小イカ2~3匹、大イカ1匹、白身魚2切が皿のぐるりまで盛られ、魚にはパセリとオリーブ油がかかってこんがり焼き色がついている。二種のソースとはアリオリかと思ったが、1つはマヨネーズ(自家製か)1つはトマトのみじん切り(muy Rinas)あるいはあろしたものと、玉ねぎの入った酸っぱいソース。ソースはあまり大したことなし。675ptsと値段も高いが、材料代だろう。素朴は新しく、魚の身もぷりぷりしていてまずまずだが、他人のを見ている時ほど驚きでない。

 くるみのは肉の煮込みと思ったが、少し厚い肉の少々骨つきの牛肉のステーキ、ポテトフライ付き。まずまず。デザートは取らずに、チップ20pts(5pts×4)を置く。結構良い店だから奮発したのだ。しかし、薫は若いボーイ長風の青年にAGUTと白地にピンクの糸で入ったナプキン(ボーイ、ウェイトレスが肩にかけていて、これで椅子のパンくずを払う)を譲ってもらえないかと言い、タダで肩にかけてもらった。このとき薫がくるみに「出ろよっ!」と怒鳴ったのがきっかけで、少しくるみが気分を損ねた。ごめん。

 

  この間見逃した動物園へゆく。この動物園はシウタデラ公園の一角にあり、入場料は大人150pts。中に入ると公園の続きのようなつくりで、木立があり、芝生があり、植え込みがある。この合間に動物がいる小屋やコンクリートの囲いがある。鳥はほとんど放し飼いに近く、孔雀がコンクリートの道に出てきていたり、草の中で休んでいたりする。その他ハトあり、スズメあり、白黒チェック赤いトサカの鶏あり。フラミンゴあり。これらの鳥たちは全然人間を怖がっておらず、また外に飛んで行きもしないところを見ると、相当のんびりと暮らしているのだろうという気がする。この動物園の中の木は、公園のと違って、これらの鳥たちの為にか高くそびえている。頭の大きな(その割におしりのやせた)土色の水牛がいた。これはピカソエッチングにあった牧神によく似た顔をしていたが、これらは見る人と同じ高さに、少しの溝を境にして突っ立っているのである。決してたいそうな柵やら金網やらを施していないのが日本と違う。象などは、大きな図体をして向こうのほうからのしのしと近づいてくるので、こちらに来そうで怖い。その他動物たちは非常にリラックスしてくつろいでいる。むしろ、我々が彼らを見るというより、彼らが我々をいっせいに見るのである。なんやあいつ、という目である。ひとつも神経症的になってない。

 

  この動物園の中には、白ゴリラの他にイルカという呼び物がある。イルカは別館の水族館にいるのだが、これがまた変わった建物である。

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丸い建物で、中にイルカの泳ぐ丸い水槽が3階にわたって深く筒状になって吹き抜けている。それを各階の窓から覗き見るのだが、これがすごい迫力なのだ。水の中心に細い泡が線のようになって揺らめているところを見ると、どうも海流に似せて水を回転させているようである。その中を大きな白い腹とグレーの体色のイルカが窓に沿って泳いでくる、。意識してか、しないでか時々窓に向かって顔を向け、水の上に飛び上がったりする。テレビなどでイルカショーを見たことがあるが、あれはあくまで水の上から見た姿でしかないが、ここのは目の高さにイルカの顔がある。とても魚とは思えぬほど(もちろん哺乳類だが)大きな図体と小こい半開きの眼が我々に向かって突き出されるのだからすごい。思わず誰もがそれに圧倒される。

  薫とくるみもまあ、うわぁ、ぎゃあ、ひゃあ、ふぇえと幾種もの叫び声をあげながら感嘆した。水の色がそうなのか、それともガラスの色なのか、マリンブルーに染まった水に、上から差し込む光がちらちらと波の模様を落としている、と思ったら、大きな1.5m四方ほどの大きなスクリーンに巨大なイルカが突如として現れる。そのすごさは何度見ても飽きることがない。水槽の底には砂が敷いてあり、そこにシーソーやら木の棒やら遊び道具が置いてある。水の底の公園といったかんじ。このイルカの周りの水槽の中の魚もまた変わっていた。幾種もの魚だけでなく、幾種ものイソギンチャクも一緒に入れられてうごめいているのである。白い虫(先端に赤い眼)のごときものもおれば、ゲゲゲの鬼太郎の髪の毛のような白いザンバラに垂れたもの、それだけがいく十個も入っている水槽もある。

  またあるところでは大きな亀が水の中からこちらを向いて、しきりに黄色い前足で泳いでいる。陸に上がった亀は見たことがあるが、水の中を泳いでいるのを見るのは初めてである。前足はボートのオールのように平たくなっていて、それをぱたぱたと上下させて泳ぐ。その顔も半開きながら獰猛そうでまさに生き物というかんじがする。大きな大きなランゴスタ、うつぼ、おこぜ、それらが岩の上、あるいは植えられた枯れ木の合間にうごめいている。ガラスを1枚通しているが、確かに生きている、という気がする。それだけ迫力があるということだ。水藻だけでなく、枯れ木や、岩やイソギンチャクがまるで海の底のような具合になっているのもアイディアだ。もう一度、イルカを見ていると、係員が来て、イルカのショーを4時からやるから、と言い、地下にはピラニアとかの魚がいると教えてくれた。地下を一周してから時計を見ると4時を過ぎていたので、慌ててショーをやっているところを探し、駆け足で飛び込んだ。

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  ショーはこの水族館から15mほど離れた建物でやっており、全面がプールになっており、そこに2匹の若いイルカがいて尾でビーチボールを飛ばす芸をしていた。これもまたすごい迫力で、ボールを水面に浮かべると、そっと回り込んでいきなり激しい速さでボールを打つものだから、ボールが水しぶきをあげて客席の方へ飛び上がる。客の方もいつボールが飛んで来て頭や顔に当たるかわからぬので、皆ひやひやである。飛んで来たボールは、子供が拾ったりして投げ、また水に浮かべるという仕組み。我々が行った時はこの終わりの頃で、何回かこのゲームをやったあと、イルカが係員のお兄さんと飛び上がって握手を交わし、その後で「Adios! Adios!」という声とともに、水からヒレを出してパタパタと振りながら去っていったのも面白かった。

 

  この後、鳥の館に行く。ここの鳥は皆ガラスの部屋に入れられ、一斉にぎゃあぎゃあと鳴いている。原色のオウムが多い中で、スズメを見つけた。このガラス部屋はユニークで、本当の電線と短い電柱でもって止まり木の代わりになっている。ここに本当のスズメがいつものように止まっている。その横の箒のように八方に開いた揺れる線の上には、小鳥たちが気持ちよさそうに眠っている。巣も変わっていて、茶色や緑色の陶器が底をくり抜いて壁につけられているという工夫もある。仲々よい。

 

IMG_5409.jpegIMG_5410.jpeg 白ゴリラは猿類だけの建物におり、頭でっかちで鼻の潰れた顔をこちらに向けては、にぃ~~っと歯をむき出して愛想笑いをするのであった。別の同居のゴリラは、皆の目を引こうとしてタイヤを転がして来てはそれに乗り、ベースやギターを弾く真似をする。もう1匹のゴリラはひとりで腰掛けていると思うと、まもなく腹を突き出し踏ん反り返って2本足で歩く。3匹はそれぞれその行動を飽きもせず順繰りに繰り返していた。さすがに、虎、ライオン、熊は、大きく深い溝を開けて彼方におり、ヤマネコ類も檻の中であった。その他珍しいところでは、ビーバーが水の中をすいすい泳ぎ回っていた。