1月19日

 昨夜は3時前まで、日本へ送る小包の荷造りをしていた。ダンボールはアパート前に捨ててあったものをこっそりだまって拾ってきた。溝というか、うねとうねの間が広いので、丈夫さには問題があるがまあしかたない。パンフレット類を書籍小包として送るので、それ用に外から書籍が確認できような穴をあけた。

 

 母親からの電話だとマルセイユから送った荷はやっと日本に着いたらしいが、破られているとのことだった。書籍と書いてあるにもかかわらず、厳重に包んであったので、調べられたのかもしれなかった。そうした反省に基づいて、今回のはきっちり覗き穴をこさえたのだったが。表書きもT太にもらった小包セットのシールを貼って、完璧に仕立てあげたし、荷札もつけた。あとは明日郵便局に持っていくだけ。さあて、何kgになるかな。というところで寝たのだった。(ついでにビノ入れの箱もこしらえた後)

 

 10:00の目覚ましが鳴っても,仲々身体がだるくて言うことをきかぬ。しかし、市場にも行かねばならぬ、小包も出さねばならぬ、と今日もまたやることはたくさんあるので、眠ってばかりもいられないのであった。CCLTostada、そして今日からmelocotonmerumeladaのも加わっての朝食。ももジャムはあまり甘さが強くなく美味しい。

 

 依然としてトイレの排水は具合が悪い。それよりどんどんひどくなっているようで、薫が肥溜めのようだと言ったが、実際目を背けて用を足し、そっぽを向いて歯を磨いていたら、ごぅ~~~っという唸りと共に正面の鏡の中に渦巻く汚水がばっちり写っていたのには参った。もうたくさんだ。でもしないわけにもいかないもんね。でも部屋を掃除して綺麗にしてからでないと我々が不潔にしているからだと思われてしまうかもしれないとの駆け引きもあって、市場から帰って来た後、受付のおっさんに言うことにしたのだった。

 

 まず郵便局へ。荷は4.1kg1300pts。表書きの他にもまた、4枚ほどの紙にこちらの住所・氏名・宛先と名前を何回も書かねばならなかった。くるみが一生懸命書いている間、薫はここのおっさんと話をしていたが、何故か日本に対して好意を抱いているか、興味を持っているからしく、自分のライターを持って来て日本製だ、と言って見せ、muy bienを繰り返していた。小包はOKだったが、荷崩れしないようにタテヨコ止めたビニールテープは剥がすように指摘された。やっと懸念の小包を送り出し、ほっとしながら市場へ向かった。

 

 途中、薫が見ていたのだが、卵ケースのボール紙のようなものでできた大きな筒に煙草か何か詰めて、太い煙をあげながら、ぼうぼうと吸っている乞食がいたそうな。くるみがよそ見をしていて見ていなかったので残念がった。

 市場では、まず、魚屋のあたりを歩いたが、イカ700/kg とどこの店でも高く、有名な鰻の稚魚アングーラスは白く細長いヘビのようでとても食べられそうになかったため、やめた。くるみちゃん、あんなの料理するの嫌だ。

 

 結局、野菜と牛肉を買った。牛肉屋さんでは、脇のほうにセリに似た緑色の葉っぱが小山に盛ってあり、肉を買った人が、「それ少し下さい」と言ってもらっていたので、前のおばさんに「Perejil?」と聞いてみると、笑ってそうだと答えた。どうりで野菜屋さんに行ってもなかったわけだ。こんなものはきっと少ししか使わないし、安いので買う人はいないのかもしれない。ビフテキ用の肉を買う人やら、牛スネ肉の塊を少し、と行って買う人やらいたが、どうも牛スネ肉は少ーーし買ってダシをとるのではないかと思われた。くるみも真似をして、普通の肉と骨・脂つきスネ肉少々、そしてperejilをもらった。Perejilはタダだった。

 

 このあと香辛料やクルミ・豆類を売る店に行ったら、米まで量り売りしていた。上から吊られた赤とうがらし3つと、黒胡椒の挽いたのをもらう。黒胡椒は瓶詰めもプラスチックケースのもあったが、おばさんは「それはダメ」というように手で制して、真鍮の壺の蓋を開けて、匙で中から胡椒の粉を小袋に入れてくれた。よく見ると片方(左端)の壁は香辛料がいろいろ並べられていて、セージやナツメグは種のまま、あるいは実のまま、蓋の開いたプラスチックの筒に入っており、挽いた赤とうがらしや胡椒、カレー粉などは蓋のついた真鍮あるいはプラスチック容器に入れられているのだった。ここのおばさんは、一見、メガネをかけて冷たそうに見えるが、思いがけず、愛想が良く、「スペイン語がわかるの?」と聞いたりした。今度カレーの香辛料を聞いてみようっと。

 

 帰りがけに角のオリーブ屋でグリーンオリーブを買い、アパートに戻る。相変わらず身体がしんどいので、くるみは気力も弱り、あーあ、あーあと何回もため息をついていた。

 

 まず片付けをし、床をはき清めて、いかにもきちんとしてます、というように見せかけてから、受付のおっさんにトイレの件を訴えにいった。長い長い電話を掛け終えたおっさんを待って、6カ国語会話の「トイレの水が流れない」を指差し言ってから、「agua」と言い、平手で水面が上がってくるマネをした。こういうことはしょっちゅうあることなのか、すぐ、ああとわかり、掃除のおばさんに伝えに言った。くるみには部屋に戻っていていいというように手で制したので部屋にて待つ。

 

 薫と、何とかあの便器の中を見せぬよう、問題を解決する手はないものかと考え、何も思い浮かばぬまま、おばさんが来てしまった。とても汚い(mucho sucio)のだと言ってもおばさんは構わずトイレのフタを開けてしまったので、二人は「ああーっ」と言って思わず、部屋の横に引っ込んでしまった。その後、恐る恐る覗くと、持って来た長い竹箒を便器の中に差し込んで、水をざあざあ流しながら、ごしごし上から押しているのだった。自分たちでさえ、目を背けたくなるようなのに、このおばさん(35歳くらいか)は、鼻唄など歌いながら、実に元気よく竹箒を上下させているのだった。まるで日常的なことでもあるかように。何回か水を流しながら、箒で擦ったのち、持って来たバケツに水を汲んで、ざあと流すと、あら不思議、直ってしまったのでした。

 

 昼食は豚肉入りトマトソースマカロニと胡瓜ピクルス、黒オリーブ、魚のボールと白ビノ、食後にオレンジ(薫はバナナも)CCL、マカロネスは豚肉が決め手。油も多めに入れるとコクが出るようだ。今日は、パセリ、チーズ、ホットソース、という脇役たちも勢揃いしたせいか旨く感じた。食事を終えて、薫は今後の予定と今までの行動を手帳に記している。