1月22日土曜日 薄く雲かかる

   10時半、予定通り起床。よく寝たようだという割に、起こしに来てくれと薫は言うのだった。朝食のパンもミルクもないので、市場に行ってからとることにした。

 

  市場はちょうどもっとも混んでいる時(11)だった。魚を買うにも肉を買うにも並ばねばならない。今日は海産物パエジャをするための材料を買うつもり。

 烏賊を買い、ムールを買う時、店のおじさんが「何?」という顔でくるみの方を見たので、思わず「これ!」と言って、ムール貝を指差したら、側にいたおばさんが「ちょっと待って、私の方が先だから」という風に、くるみを制した。薫はいつもくるみのことを「おい、早く言えよ」と急かすが、スペインではかなり厳密に(人の)物を買う順序が守られているのだった。誰か、でしゃばる人がいると、みんなしてそれを咎める。くるみは「ペルドゥン」と言った。後から来たおばさんは必ず「最後の人は誰ですか」と聞いて、外国人である私たちをも追い越さない。

 

  その後、鶏1羽、トマトなどを買って、香辛料屋に行った。この間は、くるみは気づかなかったが、茶色い細長い60cmくらいの棒がカウンターの上の瓶にさしてあった。これはシナモンの木だった。大胆だと思って驚いていると、薫がそれをパチリと撮った。店のおばさんはきょとんとしていたが、すぐにシナモンの枝だとわかると、くるみと眼を合わせニッコリした。もう12時を過ぎたので、混んでいる市場を後にして、スーパーに向かった。

 

  ここも大層混雑しており、用を手早く済ませ、坂下の乾物屋に行き、また順番待ち。人が溢れるほどに混んでいる。ここは若い店員だけで店が切り盛りされていて、その語調や動作が実に活発で、てきぱきとさばいて行くので、それを見ているだけでも大した店だなと感心させられる。全品の値段をことごとく、大きな字で明示してあり、それがスーパーにひけをとらないほど安い。皆、大量に買い込んで行くようで、ダンボールに詰めてもらっているおばさんもいた。

 くるみはいつものように「ベーコン」と行ったら、「アマド?」と聞き返された。そういえばこの間、ベーコンを2種類見せられて、1つを「ベーコン(アマド)」もう1つを「サラド」と言っていたのを思い出した。しかし、帰ってアマドを辞書で引いてみると、「愛した」「愛された」という意味しかないので困惑した。

 

 

 その後、パン屋により、アパートに帰る。今だに流しを流しに来ないので、水がたぷたぷ溜まったままだ。今日の受付は愛想なし兄ちゃんの番なので言いたかないが、何しろ不便で仕方ないので、昼食を済ませ片付けをした後に、薫が言いに行った。一応、颯爽とした足取りで見に来てくれたが、流しを見て、ああと行ってすぐに立ち去ろうとした。薫がいつものように、ペルドゥンペルドゥンと呼び止め、流しの下にも水が垂れていることを示した。兄ちゃんはそのまま歩み去り、我々はベッドに腰掛けて、兄ちゃんが戻って来るのを待った。しかし、いつまで経っても戻ってこない。ここに入った日に窓のスクリーンが壊れていると言ったら、「manana,no,otro dia」と答え、そのままになって現在に至っている例があるので、薫が様子を見に階下へ行くと、兄ちゃんは何かもそもそと言っていたらしいが、確かめると「Lunes(月曜日)」と答えたという。それまで、自分で棒か何か突っ込んで処置せい、ということらしい。全くもう、いい加減にせいよ。土曜日の午後だから修繕屋が来ないのか、兄ちゃんが怠慢なのか。

 

  それにしても、外国というのはどこでも排水がよくないのかなあ。それとも排水設備がちゃちにできているのかもしれない。鍋でもフライ返しでも、ここに来てから、次々と壊れかけになって、この間はトイレが詰まったし、その前は食卓の上の電気がつかないようになった。その他、水道の蛇口は水量の調節が全くできず、どどどーっと水が出たかと思うと、急にちょろちょろとしか出ぬようになり、びしゃびしゃはねるわ、がーがーいうわで、皿ひとつも落ち着いて洗えぬ。薫なんか大変で、いつでもわあーーーっとか、ああーーーっと叫び声を発しながら、炊事をしている。次から次へと面倒なことが起こるものだ。

 

  ふらふらとしているうちに、夕食の支度をする時間になった。今晩は正調パエージャである。まず買って来たニワトリの分解から始める。一応、鶏屋さんで首・胸・もも(2)手羽周辺(2つ)・肝臓・胃のあたり、といくつかに切ってもらったが、パエージャ用には、なお且つ細かくせねばならない。まず、皮を剥いで関節を脱臼させて包丁を入れる。これが仲々難しくて新鮮な鶏の肉の繊維が損なわれてしまいがちだ。やっているうちに次第に力が入って来てえいやっと力を入れて解体していると、薫がおおっと叫びながら、写真を撮った。「ニワトリと私」

 

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A chicken is cut into its various parts.

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chicken cutting machine is used

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Smiley KURUMi cuts chicken.



 この間のように、首と足二本、その他皮などでダシをとる。今日はくるみも一緒に作れ、と薫が言うので、何度目かに重い腰をあげた。薫シェフの指導にて玉ねぎを刻み、トマト・にんにくを刻み、準備を整えてさて本番。フライパンが小さくて、勢い良くかき混ぜて炒めていたら、米や汁やらがたくさん溢れ出したりしたが、20分後くらいには一応完成。米いつもより多め、烏賊とムール貝が加わっての正統派が出来上がった。

 

 鶏肉があっさりしていたのと、ダシが薄かったことでややコクに欠けるか。また、サフランの色が十分出きらなかったのが残念。塩加減はくるみが良いと思ったが、薫にはやや少なめに感じたとのこと。焦げ目が多少ついたが、まあ食べられるものができたので、よかったと思う。鶏肉は皮付きあるいは油のある箇所を使い、もっと多めに使用した方が良い。薫は写真を撮った。今日はよく写真を撮る日だ。完璧には程遠いが、ほくほくと温かいパエージャはやはり美味しい。これに赤ピーマンの漬物千切りを添えて、セルベッサで夕食を済ませた。薫はまだ何か物足りなそうだったが、その代わりにVinoを飲んでごまかそうとしていた。

 

 しかし!赤ビノは味が変わってひどく酸っぱくなっていた。部屋の温度が高いためと、空気に触れて酸化したのだろう。驚いた。今日、サングリアを作ったとき仲々味が決まらなかったのはこの為もあるようだ。白ビノは2日後に買って来たのと、まだ残量が多い為、それほど酸っぱくはないが、気が抜けてアルコール度が薄くなっていた。Vinoは生きているのだった。これからは瓶に入れてもらう式か、大瓶なら1本にした方がよかろう。スーパーでふつう瓶(750ml)しか置いていないのも少し頷けるような気がする。レストランマドリッドで、漬物Vinoと思ったのも、樽街のvinoが味変わりしたものだろうか。

 

 薫 洗濯、くるみ 洗い物、ののち、明日のサンドイッチの具を作る。ソーセージ2本、人参1/3本、キャベツ小2枚、玉ねぎ中1/2個、黒オリーブ56個。ソーセージ薄切り、オリーブみじん切りの他は千切りにして、塩胡椒・酢・油で和える。くるみ入浴の間、薫 烏賊煮とレバー煮を作る。くるみ散髪のうち、薫寝入る。くるみもそろそろ就寝の予定。

 

  • 昼の献立◆
  • CCL、トスターダ(マーガリン・桃ジャム塗り)コンソメスープ、トマト、セロリ(マヨネーズ付き)
  • 夜の献立◆
  • パエージャ

 材料;米、ムール貝200g、鶏肉100g、玉ねぎ中1/2個、トマト小1個、にんにく2かけ、

   ピメントン、サフラン小さじ1位、塩、鶏スープ、烏賊(身のみ)2杯輪切り、

海老残り物、赤ピーマンの酢漬け、レモン、オリーブオイル

 ・セルベッサ