11月19日 カラコレス (かたつむり)〜パエージャの名店〜

  光線はやや弱いが雲少なし、昼から暖かし。

 

 

  ところで想い出したが、この宿の主人はくるみが100pts札を落として部屋を出ようとしたとき、ためらわず声をかけて教えてくれたのだった。何度か話しているうちに、彼の親切の深さがわかってきた。

  今日の夜の話に飛ぶのだが、レストラン(Los Calacores)のチップのことで質問すると、スペインでは15%程度サービスが含まれているので、常に払う必要はない、と言った。チップの話は遠いところで、少しはPension業も絡むのに、実に明解な答えを言ってくれたのに感心した。

  そういえば、シェリー酒を冷やしてくれと言って、チップを出したときも受け取ろうとしなかった。姿勢が一徹である。親切は商売っ気から出ていたとしても全くかまわない。それは知れぬ話である。どのような骨が通っているかが重要だ。スペインでは、まず第一にこのおっさんにあったことを幸運とすべきだろう。こういう人物は宿賃を値切ることも難しいだろうと思う。押しも押されもしない謙虚な人柄である。

 


 

  朝に戻る。乾肉とパンとミルクの朝食。パンは堅いのでミルクにつける(薫のみ)。

 

  10:00すぎ、地下鉄に乗って、SAGRADA FAMILIAにゆく、お化けのような塔は階段とエレベーターで登ることができた。エレベーターは20ptsなので、もちろん階段で。これが直径の短い螺旋状になっており、手すりがないので、心もとない。半分ほど登ると内側だけでなく、外側もぽっかりと窓のように切り取られているので更に怖い。狭所恐怖症と高所恐怖症の人間(つまり加藤のような人間)がここに登ると真からビビるだろう。

  塔を登るとその外壁に蛇や蛙が地上に落ちる形でへばりついているのが見えた。くるくる回りながら登るときには、あちこちに動物や奇怪な模様があるので、のぞく窓ごとに見えるものが違う。バルコニーのように塔から少し突き出した部分は崩れ落ちないかと怖かったが、よく見ると、バルコニーの下に支えがついていて危なくない。

 

  実はこの建物を見てもそれほど驚かなかった。不気味な、あるいはユニークな形を想像する人はいくらでもいると思い、どこが天才なのかよくわからなかった。ひょっとすると、奇怪なアイデンティティを持ちながら、建築学的にも(構造上も)うまくできているところがその由縁なのか。まあ、ただ単に登るだけの塔が、8本も並ぶのは奇妙なことだ。登っているうちに、何かの状況に精神を追いやっていくことが構想されているのかもしれない。7ptsのハガキ1枚買って出る。ところで、あと200年くらいかかるというSAGRADA FAMILIAの建設費はどんなパトロンが出しているのか知りたいものだ。

 

 

  帰りは昼飯のネタを買いながら、歩いて宿に戻る。

  途中、2人に道を聞いたが、共にMetroとBusの乗り場を教えてくれ、歩いてゆくのだというと、muchosといって驚いていた。

 

  スーパーで見たところ、トマトとオレンジとぶどう(マスカット)は、まずともかく安い。VinoとMilkで飲み下した。

  くるみは洗濯、薫は夜の計画を立てながら昼寝。スペイン村に行くつもりだったが、時間が遅いので、ピカソ売店訪問をrambras通り散策。プラス Los Caracolesの夕食に切り替える。Jose市場は、野菜・果物・肉・魚屋が固まっており、人でごった返し飽きない。道と道の間の中之島のようなところに小鳥屋が何軒も並んでいた。スーパーに入る。トイレが男女とも無料なのが気に入った。この点でもスペインはヨーロッパではないと考えたい。

 

  おばはんが立ち話するBarでミルク入りコーヒーを飲んだ。1杯28pts, 料金表より2pts安かったのは何故だろうか。立ち飲みしかないのに。おばはんは喋っていると、ひと昔前の日本の陽気なおばはんと変わりない。

  カタルーニャ広場までゆき、EL CORTE INGLESという百貨店に入る。物価の相場とものの良し悪しを見る為也。服のボタンがかかった表紙のトトを1冊買う。身繕いして中を見せないようだ。石鹸箱を見るが、どれも形がまちまちで、うまいものなし。少し南に降ったところで、ナイフとフォーク(各1本)購入。持ち手は握りやすくうねり、木目のついたもの。

 

 

  さて、Los Caracolesに入る。看板のわりに店構えは狭く、細長いつくりになっている。通りに面したところは、Barで奥に行くとテーブル席になる。テーブル席には白いクロスがかけられ布ナフキンも置かれて、上等そうに見えたが、Menuを見ると、それほど馬鹿高い店ではない。回りの客はわいわいと賑やかに話しながらカラマワリ フリトスやエビの茹でたのなどを豪気に食べている。

  白ワイン500mlとエスカルゴ、カラマワリフリトス、パエリャを注文。コップはワイングラスでなく、何の変哲も無いガラス製。他の客たちの食べているのを見ても、店の作りを見ても、非常に期待が持てそうだ。ウェイターが次々運んでゆく料理皿は、どれも大胆に盛り付けられ美味そうに見える。

 

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カラコレスの店主と店内

  私たちの座ったテーブルから少し離れた(3m位)ところにカウンターがあり、その中が調理場になっている。壁際にはワイン樽が積み上げられ、そこには絵が書いてあるのがスペインらしい。天井からはセラーノとかいう感肉の塊が吊り下げられ、脂がしたたらぬよう、三角錐を逆さまにした形のプラスチックの受け皿がついていた。他の壁にもいろいろな写真やら顎やらがところ狭しと秩序なく貼り付けられており、この野暮くささがまたスペインらしく、食欲をそそられるのかもしれない。

 

  カラマワリは肉厚で良質の油を使ってあげてあるように見えた。エスカルゴは小さいのがたくさん盛られて、味付けはサイゼリヤ風のとは違い、モツ煮風でしつこかった。たぶんトマトをベースに、もつやきのこをたっぷりの汁にパン(エスカルゴの形をしている。美味しいパンだ)をつけて食べた。エスカルゴはもともとフランス料理で有名だから、きっとスペイン風にアレンジしたものではないかとも思う。気取っておらず、楊枝で引きずり出して食べる。Vinoはbodegaのもので、この店で樽買いしたワインなのか店の名とマークが入っていた。薫が店内を写そうとしてカメラを取り出していると、ウェイターが来て2人を撮ってくれるというので、仕方なく撮ってもらった。けれど、2人とも下を向いたままだったし、ピントもずれているだろうと思うので、期待はできない。

 

  そうこうしているうちに、パエージャを持ったおじさんが来たので、2人で待ち構えていると、見せただけでサーっとどこかへ行ってしまった。なあんだ、思わせぶりするなよ、などと言いながら笑っていると、各々皿に盛られて、パエージャが運ばれて来た。日本で食べたのとえらい違いで、ごはんはたくさん、エビも2種類入っており、色も黄色が強く(むしろカレーピラフのように黒みがかっている)て、すごいボリュームだ。スープには何を使ってあるのかは知らないが、魚・貝の味がよく出ており美味。また、見た目の通りで、たいそう腹が膨れる。

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全部平らげて満腹になった後、薫はミルク入りコーヒー、くるみはカスタードプリンを頼む。

 

 

  勘定を頼んでいると闘牛士のいでたちのフラメンコギターひきが別室からこちらに移って来た。耳元でジャンジャン弾くので、チップをせびられるし、嫌だなと思っているときっちりせびられた。こういうおしつけがましいのは(特に耳元でかき鳴らすなどもってのほか)大嫌いなので、絶対一文も払うまいと決めていて、皿を突き出し強要しても、ノーと言って断った。てんからお前らの音楽など聞きたくないのだ。勘定が終わると別のおっさんが空になった料金皿を指でついてムニャムニャ言ったので、チップを強要しているのだと思い、嫌な気がしたが、少しはサービスされた気もしていた。くるみに「何かチップって言ってるみたいよ」とすまして言ったので、くるみはどきまぎしながらも一瞬のうちに、薫に多すぎると言って怒られず、ボーイに少なすぎる為、嫌な顔をされぬくらいの額(5pts 2枚)をササッと頭で、2をかけて日本円に換算し、置いた。ボーイは2人が席を立つか立たぬかのうちに、サッと手のひらで金を隠して皿を取り上げ立ち去った。

 

 

  宿に戻り、MATASの主人にチップのことを聞いてみると、結局一銭もどんな店でも払わなくてよいことが判明した。10ptsという額はあの場においては比較的適切な措置だったろう。こーれからは絶対払わんぞっ!

 

 

  帰りに見えるあちこちのBarは10:00を過ぎても賑わっており、何やら熱いものをほおばったり、酒をくいくい飲んだりしているのが気持ち良く見えた。冷やしてもらったヘレスを飲みながら寝よう。f:id:dodicidodici:20181127162315j:plain