10月21日 パリへ

 7時半に起きようと思って目覚ましをかけたが昨夜遅くまで手紙をくるみは書いていたので起きられなかった。8時半に急いで食事を済ませて、10時8分のブリュッセル行きに乗るため駅に向かう。10時8分ではなく10時10分であった。ホームの待合で待って居ると駅員がホームの番線の変更を知らせに来てくれた。

  ブリュッセルセントラルに到着。荷物を預けて下町へ。駅は高台にあり、周囲の道路は石畳に覆われており、広場はその坂道を下りたところにある。

レースのカーテンを探してデパートや二、三の服地屋さんをのぞいたが、是非とも

というようなものは見つからなかった。結構フランスものが多いようだ。種類は

日本よりはやや多めか。フランスに望みを託すことにする。

 

  ブリュッセルミディにひき返し、パリ行きのフランス列車に乗る。二等だがモダンな内装。ゆったりとはしていないが、ビニールレザーのシート。窓は布のアコーデオン

カーテン。テーブルは前座席についていて機内のようだ。ゴミ入れも丸くきれいなアールで邪魔にならない格好をしている。昨夜買ったムール貝とじゃが芋のサラダ、パン、

チーズスプレッド、野菜ジュース(V8)の昼食をとる。ひどく栄養がある感じですぐ

腹が膨れた。薫は野菜ジュースを指して、”あまり飲むなよ、口を浸すだけだからな”と

自分で言っておきながら、くるみの知らぬ間にコップを空にしていた。

最後のポテトと貝はふたりで分け合い、仲良く昼食をおえた。

   

 窓から外を見遣ると葉っぱの落ちた裸の枝に、鳥の巣らしき緑色のもやもやした

かたまりがあちこちにくっついていた。

ゴッホの絵のような風景が続く。鳥の巣は枯れ枝を集めてつくったようであり、すきま

だらけだった。本当に鳥の巣なのだろうか。真偽はわからない。

  これまでと違うのは樹木が比較的線路に近く見える。家も近い。建築様式はかなり

様々なようだ。この間青空が続く。雲はところどころ、はけで引いた程度。車内は

暖かい。

くるみの観察に付け加えるが、フランスの列車は(二等、コンパートメントにあらず)

モダーンで丸みを帯び格好いいが、ヨーロッパ車の長所、列車で休む人の身になる

という姿勢が欠けているようだ。あたま当てがないのは残念だ。短時間坐って過ごす場合はいいが、長いと疲れると思う。何と言ってもスイス車の酷さにはかなわんが。あれはあたま当てが突起していて弱った。フランス車で買いたいのは、一見モダンなデザインではなく、禁煙車と喫煙車を分けるスモークガラスに見られるような空間設計と

光のあしらいだ。これはなかなかムーディで雰囲気がでる。窓の感じと、よく透けている間仕切りのスモークガラスは日本でも取り入れてはどうか。

 

  パリノード駅に着く。降りる時から黒人が多いのに気づく。構内でもそうだった。

構内は広くやたらに人が行き来している。人々の動きに法則性は少ない。ばらばら。

 メトロのカルネ(切符)売り場を探して右往左往する。違った。その前にインフォメーションで安宿を頼んだが、96フランだと云うので断った。もっと安いところを

、と言うと別の事務所を紹介してくれた。ひとり45フラン。朝食付き。カルネを買うのにもそこらのフランス人に聞きまくった。若い女の子が教えてくれようとするのだが

英語が苦手らしく相互に意思が通じない。彼女の教えてくれたのではカルネが35フランになってしまう。結局おじさんが助け舟を出してくれて20フランのカルネを買った。

 

  地下鉄に乗ると帰宅時間と重なってか、活気と退廃が入り混じった感じだった。改札口は自動で切符を入れると,遊園地のジェットコースターの肩押さえのような

鉄棒が左右に開くようになっている。これが高さも大きく、牢獄のようで恐ろしい。

ひとりリュックサックがひっかっている人がいた。

 

  LES HALLESで降りたが、駅ビルをさまよえど地上に出られず途方に暮れる。あるところは行き止まり。あるところは高速道路のガードの中に通じ、とにかく外に出られない。結局、ウ・エ ソルティ?を連発してなんとか出た。教える方も忙しそうにしている。くるみは陰険だと言った。あちこちで若いチンピラ風の黒人や丸坊主の白人がうずくまったり立ったりしているので、少し気色悪かった。

 

  途中、ホテルを探して地図を見ていて歩き出すと、バックパックからヨーヨーがぶら下がってぶらぶらしていた。誰かがくっつけたのかなあ。そのあとジャンジャックルソー通りを見つけようと焦っていた時には、大きく盛り上がった柔らかいウンコでつるっと滑ってしまった。とうとう。西洋の都会では、ほんとうに犬らしきもののクソが多く、ついに接したわけだ。おまけに、パリでは歩道脇を得体の知れない水が絶え間なく流れている。壁際からは水の流れたあとがある。これらは何か。

 

  紹介された宿に着くと、そこはユースホステルのようで、学生のような人で溢れていた。本当にドアから溢れていた。大人もまじって道に立っていた。何とか宿をとると、部屋は2人兄弟の勉強部屋のようだった。これはスクールホリデーの影響らしい。

 

  うんこまで踏んだのに、と文句を言いながら食堂を探す。しかし7:00をすぎると多くの店は閉まっている。しかし、高い店は開いている。よろず屋も閉めかけている。店頭でチョコミルクを買って、その場で、くるみが飲み口を指で突き破って飲んでしまった。その後、もう一度宿に戻り、おじさんに安いレストランはないかと聞いた。

教えてくれたのはフランス料理屋だが、1人48FFのメニューだというので次回にまわすことにして安い中華料理屋に入った。定食は1200円程度で美味しかった。

  ちなみに、夜見たパリの物価は食べ物だけでなしに高い。ワインも最低800円くらいでフルーツジュースも1L 400円ぐらいした。ひどいのになると皮のブーツより高いジュースを売る店があった。930FF。

 

  中華料理屋は「香港」という。テーブル・イスはちゃちな安食堂のそれで、上に白い布のテーブルクロスがかかり、ワイングラスと布ナプキン、皿、フォーク、はしがうやうやしく置かれている。奥にはカウンターがあって天井からは中国のものらしき、下品な趣味のあかりが飾ってあった。だが、それらしい感じを外人には与えるかもしれない。作戦としては成功。店内には千昌夫の星影のワルツや、日本の歌、クラシックなどがかかっていた。

 

★薫

・きくらげ・たけのこ・鶏肉の入ったさらっとしたしょうゆ味スープ(まあまあ)

・小エビに衣をつけて揚げた団子・青ネギ・トマトなどの野菜入りあんかけ。塩味。

(これは旨かった。小エビのホットケーキ揚げはいけた)

・またホットケーキ揚げ(中に焼きりんご、砂糖かけ)

(まあまあ。しかし汁付きのデザートが欲しかった)

 

★くるみ

・肉・かき卵・ねぎの入った酢のきいたとろみスープ(酢が強く味も濃いが、まあまあ旨い)

・carryだが、たけのこ・鶏肉・ねぎなどの入った、すぶた風味味付で、ラー油のような辛さ。

(カレーと思わなければ、具もたくさん入っているしよいが、少し甘め)

・ベリーの種類のような真ん丸く、周りがぶつぶつしている果実のシロップ漬け

 (不思議な味。甘すぎず結構美味しい)

 

  サービス・税は含まれている。中の中国人のメイドさんは顔も幼く背も低いが、フランス語を話し、きびきびとしている。薫に言わせれば横柄だということになる。しかし、最後に店を出るとき、あとから来たもう一人のメイドの子と一緒に声をかけ、にっこり笑ってくれたので、とてもいい感じがした。

 

  くるみはこういうつまらぬことで、すぐまた行こう、と思ってしまう。薫は、くるみがチップをまるで置いて来なかったので、ののしった。まるでインド人のようだ。しかし、薫だってきっとやらなかったに違いない。メイドの子は三森さんに似ていた。