10月10日 尻刺される ミラノのホテルの鉄扉越え

  6:30起床。7:00前に身繕いしてHotel de Amicisを出かける。昨夜、毛布1枚で寒く、セーターを着て寝たせいか何となく疲れている。

 

  玄関に行くと窓口のイタリア男がいない。玄関の鍵はしまっており、その外の鉄柵も頑丈な錠前で閉ざされている。この柵は高く、先が尖っている。

くるみが窓口のベルを押しても彼氏は出てこない。列車の出発時間は7:55なのに刻々と時は過ぎる。

考えあぐねつつ、何度もベルを押していると、薫が手をかけているドアがブザー音とともに開いた。これに便乗してまず玄関を出る。大きなバックパックを背負っており、かなり無理があるが、意を決し、通行人の少ないときを見計らって鉄柵を越えることにする。

 

   まず、くるみが越えたが、途中尻に槍の先が刺さった。ともかく降りた。バックパックはその後薫が持ち上げ、くるみが受け取った。薫はバックパックを先に渡し、その後素早く越えた。何とか見つからずに(別に悪いことはしていないのだが)路上に出られたので、足早にその場を去った。

   

   時間は7:10を指している。ドゥオモを目指して歩いたが、車の数がかなり少ない。心なしかバスも少ないように思われ、うまく地下鉄で連絡できるかやや不安になる。ドゥオモに着く頃には、7:30近くなっており、なんと地下に降りる階段に柵がされている。まずいと思い、通行人にバスのことを聞いたが、これもあまり来そうになく、ともかく地下鉄の降り口までゆく。

   そばの男に聞くと、地下鉄は動いているという。それからは1本地下鉄を乗り損ねた他は、ともかく全力をしぼってミラノセントラルに行く。このとき、7:53。駅でローマ行きは?と聞くと、8:10のTEEを指してくれたが、7:55があるはずだと思い、探す。

   見つかるや否や飛び乗って座席に座ると列車は動き出した。くるみはあまりの疲れで眠る。薫はかなりの汗で着替える。コンパートメントの他の乗客はみな、会社員風である。なにやらオートメーション機材のカタログを見たりしているのがいた。

 

 

 

  

   フィレンツェC.M.N.に11:45着。インフォメイションを見て20500リラで朝食つきのLOCANDEを紹介される。

   宿屋へは細い路地を通り、やや小汚い。近づくとあたりはボロアパートが多く、やはりその中の一室だった。看板も古びている。階段には電気がなく、急なそれを見上げると、上は真暗に見える。扉が見えない。かなり怪訝に思う。

   

   ブザーと押すと、陰気なイタリアのおばさんが早速部屋に案内してくれた。心なしか掛かっている絵も青白いピエロとか、病弱な娘とか陰気くさいものが多い。

   部屋は意外に広く、思ったほどひどくはなかった。但し、家具類は最初背を向けてあるのかと思ったほど無愛想だった。何となく部屋のにおいというものを感じる。湿気ているせいだろうか。

   窓を開けると四角い中にはり出したベランダが口の字に連なっており、そのベランダには大きな洗濯物やら子供の自転車やら犬やらが散らばっている。植物の棚もはり出しており、陽が入りにくい。

 

   しばらくして、パスポートを返してもらい、街に食事に出る。MENZZAにいこうと国鉄の周りをうろついていたが、埒が明かない。構内の職員に聞くと、閉まっていると言われた。そこで評判の駅のセルフサービスレストランに行き、一人三皿、二人でワインの小瓶1本を飲食する。そうたいしたことはなし。

   トマトスープで豆やら米やらを炊いた雑炊は口にあったが、もつのトマト煮はけったいだった。値段も二人で合計15,000リラで安くはない。皿数を減らし、スパゲティなどを食べればよかったかもしれない。

 

 

   ドゥオモ方向に向かう。いろいろ大きな建物を目撃したが、だいぶ慣れっこになって、感慨がうすい。それよりともかく路地が狭く、小汚いのが強く印象に残る。なぜこれが花の都なのか。どんよりとした天候も影響してるのだろうか。心なしかミラノに比べて活気がないようだった。

 

   途中で道に迷う。方角が全く知れない。道が細く、似た建物が多いためだ。投げ槍に歩いていると、露店のいくつかに出会ったが、くるみが安物が多いようだと言った。特に魅力を覚えず。

 

   雨が降り出した。軒をつたいながら駅付近まで戻り、Barにてコーヒーとカプチーノを飲む。うっかりしていたが、コーヒーとはコップの1/5くらいしか淹れてくれない。苦い煮しめたものだった。薫しくじる。カプチーノとはその濃いコーヒーに生クリームを入れたもので、ミルクコーヒーの親戚。日本人の口にも合う。これは金100円也。宿に戻り、くつろぐ。

6:30すぎにやや浮かぬ気分で夕食に出る。金を節約するためサンドイッチにコーヒーと堅く心に決める。先ほどのカプチーノの店を探して入った。

   ところでこの頃になると昼とは打って変わったように、人通りが多く、ごった返している。皆口々にわあわあ言いながら歩いている。女の子に声をかけたりしているのも見かける。これがフィレンツェかと思う。顔も昼の人相と違って活気に満ちて見える。やはり若い奴が多いか。

 

   先ほどの店では、カプチーノとホットドッグを食べる。ホットドッグは波型にパン焼き器の焼き跡がつき、カプチーノともに仲々旨い。それまでむっつりと客あしらいしていたおばはんが、薫がHotdog and Captino due!と大きな声で言うと、にっこりしてくれたのが嬉しかった。

   次にピザの旨そうな店を探した。きのこ乗せピザとモッツァレラチーズとピーマンのピザを各160円で買ったが、きのこ(しめじ)乗せの方がより美味しかった。(くるみはピーマンも美味しいと思った。)これは、その場で鉄板にのせてあっためてから出してくれる。ピザのパンのお肉は、ふわっとして柔らかい。

 

 

 

   家の先の店屋などをのぞいて帰宅する。もう自宅の気分なり。二日いると本籍のようになるだろう。宿でビールやワインやオレンジジュースを比較的安価売ってくれるのはありがたい。オレンジジュースを1リットル200円で買う。

 

   ジュースを飲みつつ、日記を書き、安眠の時に近づく。天気が良ければ、明日はピサへ。しかし宿が決まっているのは安心やなあ。ほっ。

 

 

   ずいぶん長い間風呂に入っていないので、動くたびに臭い。まるで、乞食のそばを通った時のような臭いに閉口。(あらためて嗅いでいる薫)  動物園の臭いにも似ている。頭もフケが出るどころではなく、フケが塔のように立っている。頭が大きくなったかんじか。

いま薫は急に気づき、身体中をかきまくって、ベッドの上に汚い垢を落としている。ダブルなのでやめてほしい。

私達がスリにも狙われずこれたのはこの臭いのおかげかもしれない。