Catedralそばでチョコレートかけられる!1月30日日曜日

  9時のベルにてくるみのみ起床。薫は毛布を被ってまだ寝ている。後からごそごそ起きてきた。今朝はパンがない。何故かというと、昨日パンを買い忘れたので夕方買いに行ったがパン屋が閉まっていた為。スパゲティアリオリを食べるつもりでいたが、さすがに朝からは胸がやけそうで止めた。CCLのみ飲んで朝食とする。くるみはポテトサラダを作ったが、昼食分とする。

 

  MetroJAIMEまで出る。やっぱり切符は休日用のに変わっていて、各30pts。しかし我々は回数券を買ったので各17pts余り。とくちんとくちん。駅を出て「有名な」ゴシック地区にある大寺院(Catedral)に向かう。教会は苦手だが、観光案内書の必見印がついていたこともあり、また日曜はタダの可能性が高いためだ。なるほど、とんがった屋根といい、大きく弧を描いた入口といい、大胆ではある。入り口におばちゃんがひとり、机を出して坐っていたので、お金をとるのかと思って見ていたら、皆すたすた入って行くので、おばちゃんは案内書を売っているだけであることがわかった。出口の方にはヒターノ風の黒い髪、暗い眼つきをした青年がひとり立っていて、彼は手を出していた。入場料を払わない代わり、金をくれろというのか、それともキリスト教信者の慈悲を待っているのか。

 

  我々は案内書にあったように、寺院横の入口から参入。ここにも傘立てはあり、一昨日と同じようにろうそくが灯されていたが、あまり色とりどりではなく、赤一色だった。この小さい部屋から回廊に出て、回廊沿いに祀られている像を見ながら一巡りした。薫の指示に従って案内書を見たら、ここにはいろいろな聖人が祀られているが、人気の度合いによってかロウソクの数が異なると書いてあった。そのとおり全然灯されていないところもあった。あちらこちらにイスラム模様が見られたが、(木彫りのドアーの模様など)こういうことを大声で言うと怒られるかもしれないので、小さな声で囁き合った。この回廊の中央には太った白ガチョウが数羽住む池と、蛇口に可愛い人形のついた噴水つき水飲み場があった。蛇口の人形は馬に乗った人を形取ったもので、8つの水道どれにもついている。またこれはライオンを模した顔のところから突き出ている真鍮製のものである。てっぺんには、馬に乗った騎士が龍のようなタテガミのある動物を槍で突いているところが像になったものが青く苔むした上についており、周りにいく筋もの細い水が上に向けて盛んに吹き上げているのが可愛らしい。多くの人はここで記念写真を撮るようだった。薫は大好きな噴水をまたもパチリ。一周したところでMuseoのドアを押してみたが、今日はやっていないらしかった。隣の大扉の向こうからは微かに人々の賛美歌を歌う声が聞こえた。「まずいな。もう見終わってしまった」と薫が言った。実際、我々は建築の知識もないので、こういう大層な建物を見てもあまり感動しないのだ。入って来たところから改めてぼんやりいくつかの像を見ながら歩いた、

 

  すると突然くるみの耳元でガサッという音がした。虫でも襟元に入ったのかと思い、首をすくめて立ち止まって、薫ちゃーんと叫んだ。2~3m前を歩いていた薫がこちらを振り返り、「何や」と答えた。この時点でくるみはどうも虫ではないらしいことに気がつき、また誰かに何かをかけられたのかと一瞬思ったが、後ろに歩いていた男が上を指差して何か言ったので、鳩のフンがかかったのだと思い直した。薫が近寄ってきてティッシュペーパーで髪についた液を拭いてくれた。男はうまくない英語で「water(ウァーター)」と言って噴水の方を指差し去っていった。立ち止まってジャケットにかかった方も拭いてもらう。ふと見ると、拭いたティッシュペーパーが薄茶色に色づいているので、変な色のフンだなあとくるみは思った。薫もあまりたくさん液(フン)がかかっているので変だと思ったのか、急にティッシュペーパーに鼻を近づけてニオイを嗅いだ。薫は鳩のフンを嗅ぐなんて、変なことをするなあ、と思っていると、「おい、これチョコレートだぞ」と言う。なるほど、鼻を近づけてみるとチョコレートの甘い匂いがする。そうか、薄茶色もそれで合点がいく。

 

  「あいつやな」と思って、辺りを見回したが、先ほどの男はすでに見当たらなかった。さっき「water」と言い置いて立ち去った後、ずっと正面のドアの横に青いジャケットを来た男が彼を待っていたように思えたが友達だろうか。薫は「ひとり日本人がいて、盛んにこちらをじっと見ているなと思ったけど、あいつぐるじゃないか」と言う。もう一度見つけて、鳩じゃなくチョコレートであることを言ってやろうと思い、二人で辺りを見回しながら一周した。いないなあ、逃げ足が早いなあと思っていると、すぐそばのへこみのドアから青ジャケットが出て来た。二人で歩み寄る。青ジャケットの後から先の男も顔を出した。我々が立っていたのでびっくりしたようだが、「ああ」と言い、何気無い風を装っていた。青ジャケットは平気な顔でくるみの前を通り抜けた。この男は一見日本人青年風に見えるが(髪が黒い)、肌の色が褐色がかり、唇が分厚いところを見ると、どうも南アメリカか東南アジアの産まれといったところ。遠くで見ると若く見えるが(背が低い)、近づいてよく見ると、図太そうな表情といい、体躯といい、見た目より歳がいっていそうだった。こいつは結構強そうなのでやり過ごした。薫は先の男(茶色い半コートを着て茶色の色眼鏡をかけ、革のバッグを脇に抱えている)に向かって、「No pigeon! Chocolate!」と言った。男はびびっていたようだったが、眼鏡の奥にそれを隠して、くるみの前を通り立ち去ろうとした。くるみはチョコレートのついたティッシュペーパーを突き出し、「You! Chocolate!」と言ったら、更に男は慌てて「No」と言い、引きつった顔のまま足早に立ち去った。我々はゆっくりと彼らの後を歩いて行ったが、途中で見失った。かなりやばいと思って慌てて逃げ出したらしかった。横の出入口から教会の周りをぐるりと一周してみたが、どこにいったのかもう姿は見えなかった。諦めて、教会に戻り、噴水のところの水で背中についたチョコレートを拭き取る。あの男は、くるみにチョコレートをかけるだけで何故逃げて行ったのだろうか。この間(暮のスリ)のようにティッシュペーパーをくれるとか、水で拭いてやるとか言うんならスリだとわかるのだが。くるみが1人で歩いていると思ったのだろうか。いや、そんなことはない。薫は連れの青ジャケットがこちらをずっと窺っているところを見たのだから。慌てて上着を脱いだところに近寄って来て内ポケットのものを盗むつもりだったのだろうか。それにしても、くるみはハンドバッグを持っていなかったのだし。いろいろ疑問ばかり。「今度こういうことがあったらその場でクリーニング代請求しよう」と薫が言い出したのは帰りのmetroの中だった。それまでくるみの心の中では、「変やなあ変やなあ」という気持ちが出たり消えたりしていた。

 

  この事件のすぐあと、事件横のフェデリコマレス美術館へ行った。彫刻が展示されていると聞いたが、それは何とキリスト教関係の彫刻ばかりだった。部屋中いたるところに十字架にかけられたイエスやマリアがあり、キリストは斜めに傾けた悲痛な顔ばかりが並んでいた。我々はキリスト教信者でないので、こういうのはすこぶる苦手である。「陰気やなあ、まいったなあ」と薫がぼやいていた。しかし今日は日曜日なので入場料タダというだけありがたい。一回をさっと見終え、預けた荷物を受け取ろうとすると、係員が上もある、と指差した。行きたくないのだけど、何だか余り早く出て行っては失礼のようなので仕方なく、二階に上る。二階もまたガラスケースに入れられたキリスト、マリア、マリア、キリスト、キリストマリアマリア

 

  窓をカーテンで覆って暗くしてあり、人気がないので、少し不気味にも思える。薫は何を思ったかシャッターを切っていた。ここも見終えたので出ようとすると、今度はここにいた監視員が「3階もあるよ」と指差して教えてくれたが、「Si」と答え、そそくさと立ち去った。スペイン人、親切なんやけどなあ、見たくないんよなあ。彼らはこの美術館に相当自信を持っているようであり、また自分の職務を誇りに思っているようでもあった。やっと荷物を受け取って表へ出た。

 

  また、全ての美術館が閉まる。1時過ぎには間があるのでピカソ美術館にゆき、タダなら入ることにした。途中、旨そうな揚げパンカスタードクリーム入りを売るehuleriaにて揚げパン2つ購入。歩きながら食べる。これはつい今しがた揚げたばかりのように温かく柔らかく、かつクリームも甘味控えめで美味しい。薫は4口ほどで平らげまだ欲しそうなので、くるみが「ひとくちあげる」と言ったら、大きな口を開けて半分ほどを食いちぎっていた。あとには、直径8cmほどの楕円型の歯型がついたドーナツが残った。これをPicaso美術館の前で食べ終え、口の周りについたざらめ砂糖を落として、Museoに入る。

 

  今までしばらく窺っていたところによるとタダらしい。そのせいかかなりの客が出入りしていた。もっとも日本の美術館ほどではないが。5階にあるピカソの写真展を見る。薫は「大してうまないが、被写体がいいので上手く見えるなあ」と思ったそうだ。「いい服着てるなあ」とも。くるみも同感。黒地に山吹色や黄緑で丸い模様をつけた南米風のシャツに帽子がよく似合っていた。「やっぱりブラッサイやダンカンの方がうわての写真家やなあ」とまたつけ加えた。

  帰りに先のchuleteriaによってみると、人が店からはみ出すほど混んでいた。日曜日には全て店が閉まっているせいもあるだろうが。みんなが買っていたchuleを我々も100gだけ買ってみる。いつだったか(ALGECIRAS)買ったchuleは時間が経ってしまったせいもあり、できそこないのたこ焼きのようだったので、それ以来chuleというと顔をしかめる薫だったが、今日は汚名挽回のため、もう一度挑戦してみようと思ったわけだ。Azcarun poco入れてもらい、せがむ薫につられて食すと、カリッとして意外に美味しかった。「うまいやんうまいやん」と言いながらどんどん薫は口に放り込もうとするので、「ダメ、家帰ってからコーヒーと一緒に食べるの」と言って言い聞かせたのだった。

 

  アパートに戻り、チューロとドーナツとホットレモネード、それに朝作ったポテトサラダの昼食。これだけでほぼ満腹になる。薫は英語を訳し、くるみは薫にいじめられふて寝。玄関のブザーの音で目を覚ますと、薫が散歩から戻ったところだった。しばらくして夕食の用意。くるみラムの香味焼き担当。薫マリスコごはん担当。

いかに簡単な手順を示す。

マリスコごはん〉

  1. みじんにした玉ねぎ半分を油で炒め、洗った米1.5合を加えて更に炒める。
  2. 別鍋に水1L強とエビ4尾を煮ておく。これにはワインをどぼどぼと注ぐ。
  3. ①を②に加え、煮る。ほぼ煮えたところでKnorr製マリスコごはんの素を入れる。

できあがり。

ラムの香味焼き〉

  1. みじん切りのにんにく、手で潰したタイム、クミン、それに塩胡椒をラム肉にまぶす。
  2. 油で勢いよく焼き、途中で白ビノ、水少々を振ってできあがり。

 

  • 反省その他

マリスコごはんは昨晩の方がやはり旨し。どうしてもやはりインスタントはインスタントだ。味のバランスは取れているが、何となく物足りず。この調和はどこまでいってもくずれることはないが、これを越えるものにはならず、また加えれば加えるほどインスタント臭が強くなるばかりのところが欠点。今回はエビ4尾を入れたため、かなりエビに重点がかかり、エビご飯になった。でも米は美味しいなあ。ラム肉は厚いところが生焼けになった。随分フォークで抑えて焼いたのだがな。火が弱いのかな。香辛料はタイム中さじ1杯ほどクミン小さじ1/3ほど、ニンニク2カケ入れたが、もっと強くて良さそうだ。ラムの味がかなり濃いので、その方が釣り合いが取れる。もっと細かく砕いて、すり込んでおいたらよいか。考察の余地有り。

今晩はこの他にシャンパ(80pts)を。シャンパンはやはりROSADOより安い味がする。しかし旨いが。食後にオレンジ1つ。その後、CCL、ヨーグルト桃ジャム入り(くるみのみ、これは旨いよ)薫はブランデー・ビノを飲み、オリーブをかじる。くるみは靴下とウールものの洗濯をしたが、たくさんの水が滴って床がびしょ濡れになった。うまい手はないものか。薫が風呂から上がり、歯を磨こうと洗面所に引き返し、スイッチをつけたら電気が切れてしまったらしい。まいったなあ、得意技やなあ。またあの兄ちゃんのときやなあ。どうも薫とあの兄ちゃんとが合わさると厄介なことが起きるようだ。まったくここに来て1ヶ月しか経っていないのに次から次へと考えうる全てのことが起きるようだ。本当にくるみちゃん怒るよ。直るまで真暗な中でトイレしないといけない。さて、寝るか。