ナザレ 海辺の光景 12月15日 水曜

  薫のみ早起きして、と言っても8時だが、漁師たちの写真撮影に出掛けた。

くるみはきれいで暖かい部屋の中で、ベッドにうずもれていた。

 

  天候、曇り。海は大きく荒れており、船は海辺で休んでいる。一艘何とか船出したのがいた。浜辺を端まで歩いていくと、4、5人群れて輪になっているのが居た。何だろうと

近寄ると、一人のおっさんが砂浜を懸命に掘り返していた。貝かと聞くと、別の男が

ポケットからコインを出してこれだと示した。どうも浜辺にコインを撒いてしまったらしい。

 

  ホテルの方に戻ると、又一艘荒波に漕ぎ出そうとしているのが居た。しかし、

ポンポン船は砂につかえてなかなか海まで出られない。パジャマ姿のおじさんやら裸の

屈強な若者やらが5、6人で船を懸命に押している。30分しても動かない。波をうけて

船が横倒しになり、もう駄目かというところにリフト車がやって来た。ロープを掛けて

何とか体勢を立て直す。ひとり散歩の男がまた船を押すのに加わった。

何分かして波も高くなりやっとの思いで船出した。

  キャプテンと若者ふたりだけが乗り込み、残りの者は、テコに使った丸太を

集落の方へ運んで行った。残っていた一本は私が運んだ。

 

  宿に戻るとくるみが、遅いなあ、と愚痴をこぼした。右手に曲がった広場のカフェで朝食。ナザレの家並みを歩く。確かにおばあさんは黒やチェックのだぼだぼスカートを履き、

頰被りしている人が多い。公設市場をのぞいてから、ウールシャツ屋に顔を出すと、

あと30分で出来ると云う。一旦、宿に戻り、バッグを持ってシャツ屋で待つ。

シャツは、シティオ(新市街地、崖の上にある)で縫っているという。オーダーしたシャツが

すぐ翌日には出来上がり、刻々と今待っているのが不思議な気分だ。

リスボンにも支店があるが、作っているのはナザレだけだ。おっさん曰く、うちの店は

カントリー一番。出来てくるまで、ショールやスカート、襟巻きや毛布まで色々出して

見せてくれた。すべてピュアウール。毛布など厚手で柄のいいのが、3200$(約1万円)

スカート2000$、襟巻き400$。。

  やっと、丁稚が仕上がり品を届けに来た。生地だけ見ると大柄だが、仕上がると意外に

変化に富み派手な印象になっている。ゆったりとした造り、袖付け襟ボタンなど手抜きなく

しっかりした造りになっている。何より布地がわずか1日でシャツになって帰ってくるのは

嬉しいものだ。

 

  試着したのち、急いでALELUIAにゆく。時間がないので、rapidを繰り返すと、

ブイヤベースなら出来ると云う。これにビール。具はたら。これに茹でポテト。たらの身はホコホコと新しい。10分くらいで食事を終え、ビールの残りを立ったまま煽り、バス停に向かった。

 

  VALADOからFIGELADOFOZ経由で、COIMBRAへ。相変わらず列車の中は汚く、モロッコといい勝負だ。薫が、”全くもういい加減にせえよ!と激怒する。窓もさることながら

ビニール製のシートの頭辺りに、みんなの頭で押しつけられた汚れの頭輪が出来ている。

窓は茶色く濁っていて外がうまく見えない世界。

 

  COIMBRA B駅に着き列車を降りようとするや否や、乗り込む人たちで押され、列車の中に戻されそうになった。薫が大声で、WAIT!WAIT!と叫び、くるみが後ろからウェイト、ウェイトと小声でついて出た。この悪いマナーの人たちの正体は、学生や勤め人。これで

コインブラの印象は悪くなった。駅前には横断歩道も、信号もない。

 

  雑然とした通りをインフォメーションへ。バスを待つ人たちの行列も、道の幅も決まりがなくごたついている。川の端の柵には、洗濯物が干されていた。インフォメーションでは

おばちゃんが地図をくれたが、pensao(ペンション)のことを聞くと、値段等もよく

分からないらしい。ひとつだけpensaoを教えてくれ、700ぐらいと聞くと、may  be

と答えた。

レストランはここの若い女の子に聞いた。インフォメーションに置いてある店のカードにお勧め料理を書いてもらう。高くなく、とてもとても美味しい、とのこと。ここの人たちは

皆流暢な英語を話し、賢そうにしている。ペンション街で迷っていると、通りすがりのアベックの兄ちゃんが、sleep?と呼び止め、pensao universalを指して、goodだと言ったので

ここを当たる。二階に上がると、太った黒服のおばさんが現れ、値段を手に550と書いて示した。見せてくれと云うと、階段を指差し、強い濁声で、”UP!"と叫んだので、くるみ気圧されながら上がる。

  部屋には、木彫りの家具とベッドが並び赤いカバーが掛かっていてまずまず。

建物に入った時の料理の匂いと、ゴタゴタと廊下にものが飾ってある様子に、つい家庭的と

思ってしまい、値段も安いので決めた。ツインベッドルームは、もうちょい高いと、やさしそうなおばさんが教えてくれたので、止す。しばらく休んでから夕食に行こうとすると、

奥まった机に坐ったもうろく爺に呼び止められた。パスポートの記載事項を写していて

分からぬ事があるらしく、唾を飛ばして我々に訴える。皆目見当がつかぬところに

先ほどの太っちょおばさんが現れた。パスポートの期限を聞いていることが分かった。

このじいさんに指の皮が逆剥けしていることろが怖い。この二人組ともヤニ臭いのには

閉口した。

  教えられたレストランにゆき、店頭のあやしげな緑色のネオンにもめげずに入る。

ARROS MARISCOS(海鮮もののライス料理)と、CHANFANA(肉料理、正体不明)を注文。ワインは小さなボトルの白。隣の席のがきどもが我々に向かってしきりに叫んでおり

おやじも唆しているようなので、薫、”しつけの悪いガキだ。”と評した。

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勘定の時、5000払ったら、細かいのがないかと、返して寄越すので、ないと言ったら

ゴタゴタした後、やっと戻ってきた。何となく取りすましたいやな店だった。

 

  腹ごなしに通りを散策。車の数もだいぶ減り、人通りも少なくはなったが学生らしき

かたまりがあちこちに出来ていた。通りに建てられた、藁小屋でキリスト生誕した人形を撮る。撮ろうとしたら、数人のガキが邪魔をしてカメラを覗かせてくれとか言って薫の後をついて来た。そのうち一人はひどくみすぼらしいなりをしていた。ポルトガルにもヒターノが居るのかな。一喝して散らした。

 

 宿に戻ると、おっさんが勘定を今払えと云う。何か面倒なことが起こり、取り立てられなく

なったら困ると思っての措置か。少し怪訝に思う。

部屋をよく見ると、大したことなく水道周りもどこかケチ臭い。トイレも風呂も手入れが

されておらず、このホテルの人たちの人柄を窺わせた。

部屋の水は黄色く濁っており(温水)とても飲む気がしない。二人でぶつぶつ言いながら、

こんなポルトガルなんてもう出たいよと、うんざりする。しばらくコインブラの悪口が続く。

 

  くるみはトマスクックの国際時刻表を見て、電車の時間を調べるがおそろしく、サラマンカはじめ国外への連絡が悪い。10分違いで先に出てしまう列車など申し合わせていじわるされている様だ。あまり観光客が来ないので足止めを食わせるためか。

こんな事だからだめなんだ。

くるみ、しばらくトマスクックとにらめっこすれども打開の余地なく、あえなく就寝。

 

ポルトガルの印象)

ともかく活気や覇気といったものにとんと縁がない。CAFEのにいちゃんも暗い顔をしてのろのろとうすいミルクコーヒーを入れている。目が落ち込んでいるので、洞穴から覗かれて

いるようだ。これは仕方ないが。

  ヨーロッパの田舎者という位置にも関わらず、田舎者の親切さや長閑さがない。

昔栄え、今落ちぶれたものの変にこ利口な陰険さが窺われるだけだ。子供なども

素直そうなところがあまり見られず。皆暗い目をして見上げているだけなのだ。

ディスプレイもスペインに比べて一層野暮である。

  学生も、国立大学と云う割りに喋り方も知的でなく、野暮である。

マナーも悪い。