意外に都会 ジェノヴァ 12月30日

  昨夜は何も出来なかったので、8時半起き、9時過ぎに出掛ける。

くるみは31日の買い物など考えているうち、頭が冴えてなかなか寝つかれず、寝不足で

ぶうぶう、こぶた。インフォメーションに行ったが、まもなく帰るとの札があるだけ。電車の時間を調べているうちに、やっとおばちゃんが帰って来た。花柄付き土鍋の絵を見せ、店を

紹介してもらい、地図、ホテルリストをもらう。手短で要領良く、しかし、愛想はない。

 教えてもらったバスに乗り広場に向かう。ひとつトンネルをくぐったところで降りて、

ローマ通りを歩く。紹介の店は恐ろしく高級そうなところで敬遠。

9月20日通りを中心に自力で探すことにする。Barで朝食の後、くまなく歩いたが、デザイナー系の高級洋品店が多く、土鍋など見当たらない。

 ここいら辺はがっしりとしたゴシック建築の建物が多く、重厚な雰囲気がある反面、鋭い

センスの超モダンな店が軒を並べている。店造りも周りのその重厚さを利用して格調高く

見せており、古びた汚らしさはない。置いてあるものもよいが、ディスプレイが仲々凝っていて買いたい心をそそられる。やはり、スペインとは違うなあ。特別に作者名のない人のデザインでもそれぞれに個性があり、デザインが大量生産的でない。やはり、モノを買うならイタリアだね、とふたりで感心した。しかし、値段は高く(と言っても日本と同じくらいだが)

いいものは当然、値も張るのでとても買えない。でも、質とヴァリエーションでは日本より

優っているだろう。

 よいカシミアのマフラーがあった。靴のデザインも斬新だった。

 

  歩きながら意外にGENOVAが都会なのに驚いていた。路地を歩き回り、ガッチリした建物の門をくぐったところに公設市場があった。果物を買うつもりで入ったが混んでいる為、後回しにしていたら、奥の方の一角に食器鍋類を扱う店を見つけた。辺りには生地屋もある。ウインドーを覗いていると、結構いい魔法瓶があったので見せてもらう。ここの親父はチェックのハンチングを被った40過ぎの男で、ハンサムな表情で落ち着いた視線を投げかける。悪い意味のイタリア的狡猾さは見えないが、やり手のようである。ポットは2分の1リットル入りで4500リラ。値切ったが、一個では引かないというので、あっけなく買った。あとでスーパーその他を見て回ったが、どれもこれより高かった。土鍋は見つからないので、昼食に昨日のクッチーナへ。

 

  相変わらず、結構混んでいる。おばさんは動じない笑顔で迎えてくれた。旨そうなスープなので頼む。これはzuppa minestroneと云うが、じゃがいも、パセリ、ささげ豆、鶏皮、玉葱、パスタが入ったボリュームたっぷり、味はこっくりしたもの。ポタージュのごときミネストローネは初めてである。

舌鼓を打って、セコンドは牛肉のトマト煮込みを。茹でポテトが付いて、あっさりとしかし、よく煮られているので肉離れがよい。パーネも食べられず、おなかパンパンになり、ほろ酔い気分でおもてへ。よい店を教えてもらったことを喜ぶ。

  書き忘れたが、薫がここの主人と奥さんの写真を忙しい最中、撮らせてもらったが、二人とも嫌な顔ひとつせず、落ち着いた態度でポーズを取った。

 

  この後、市場にゆき土鍋を仕入れ、Barに入って時間を過ごし、駅の銀行で両替を断られ、サッカーシャツ屋を覗いてから市場に戻って夕食材料を仕込む。

 

  Barではテーブル席に座って長居をした。他のテーブルのおっさんたちの前には何もないところを見ると、とうの昔に飲んでしまったらしく今はテレビドラマに熱中していた。少年たちはゲームで遊んだあと、テレビを見ていたが、ここの親父に手を叩いて追い払われた。我々も早々に退散。駅の銀行はすでに1時半で閉まっていたので、構内の両替屋にいったが、トラベラーズチェックを断られた。せっかく、スポーツウエアをふたり揃って買おうと思ったのに。バーゲン品は上下で22500リラと安いが、デザインも色もあまり大胆とは言えない。余り金は70000リラちょっと。

格好いいフットボールシャツのある問屋風の店を覗き、値段を聞いた。ここのシャツはイタリアのサッカーチームのユニフォームで、鮮やかな青色の地にしっかりしたワッペンが縫い付けてある。首はV字、襟元と袖口はゴム編みのようになっている。赤緑白のトリコロールまで格好いい。これは上下1着45000リラでとても手が出ない。PUMAの上下も結構よいデザインだが、40000リラからととてもふたり分は買えない値段なので、諦めて店を出た。両替さえできれば買うことが出来たのに。

 

  夕飯の買い物でごった返す中、大声を出して、列車の中で食べるハム、チーズ、オリーブ等を買い込んだ。時間がないので急ぎ足で駅に向かう。バスを使わぬ癖がついてしまっている。結局、駅近のスポーツ用品店で、25000➕26500=51500リラのところ、ごちゃごちゃ

交渉しているうちに向こうの奥さんに勘違いが生じ、より低い値段を提示したので鷹揚に受けて、42500リラで決着した。おばさんは愛想よかったが、おっさんは心なしか不貞腐れたように、ブオナ・セーラを4回も繰り返して握手した。

 

  途中の店で牛乳を買い、駅の両替所に行ったが、またしても断られた。ここでは他国の現金からイタリアリラしかやっていないらしい。イタリアリラが弱く、不安定だからリラを返されたくないと云うことか。他国の現金、ドルや円の方が持っていて安全と言うことだろう。

両替所が大層愛想悪いのも腹が立ったが、別にこの人が悪いわけではない。

 

  ホームにゆくと、もう皆列車を待ち構えていた。列車はホームに滑りこんでき、一等車に

乗り込み座を締めたが、まもなくこの車両は、Port Bouまでしか行かぬことがわかった。

停車の間に、ふたり荷物を背負ってホームを駆け出し乗り換えたが、すでにどこの車両も

満員であった。仕方がないので、コンパートメントの前の廊下に立っていたら、同じような

バックパッカーの他、フランス人が多く、鼻持ちならぬおばさんも結構いた。

 ひとつ空いた席にくるみだけ坐っていたら、隣にいた車掌さんがしばらくして席を譲ってくれた。恰幅の良い穏やかな顔をした車掌さんだった。斜め前の夫婦は独特で、男性は下品な金持ち面まる出しで鼻の穴をおっ広げてふんぞり返っていた。喫煙車なのに、タバコを吸おうとしていた人を、no!no!とにべもなく断っていた。奥さんはていねいに手入れされたミンクの

コートを着ていた。彼らが降りると、急にくだけて穏やかな雰囲気が漂い、そろそろと夕食の

準備にかかった。

 パンを切り、ハムとチーズを挟み込む。パンもハムもチーズも全てvery good。前のフランス女性もサンドイッチとオレンジを取り出し、本を読みながらかじっていた。

  ベンティミグリアにてイタリア人アベックと同室になる。彼らも早速細長く丸っこいパンを取り出してナイフで切ってはジャムを塗りつけていた。我々もお裾分けにあづかった。我々はオリーブでお返しをした。このお兄ちゃんは怖い顔をしている癖によくお喋りをし、冗談も言うひとだ。大きなオレンジの皮もするすると剥き、中の白い皮も綺麗に取ることが出来た。

 女の子は豹柄のプリントシャツに黒いコールテンのズボン、黒ブーツこれにエメラルドグリーンのスカーフを首元に巻き、同色のレッグウォーマーをブーツから覗かしている。ハードボイルドなふたりだった。しかし意外にもこの手の若者にしては珍しく、パンの屑、みかんの皮などはきちんと始末し、借りたものの礼も忘れない道徳的な一面もあるようだ。薫はじめ

次々に寝入る人が増え、そのうち全員が就寝。