10月28日 腕相撲in ミュンヘンビアホール

  まず、McDonaldで客を装ってしょんべんしてから、もう閉店した隅々を見て回る。やっぱりヘンケルの料理バサミも買っておけばよかったなあとくるみが愚痴をこぼした。昼頃行ったコーヒー屋はもう閉店していた。結局ほとんどの店が閉まっているのに人だけはこの通りをたくさん往き交っていた。

 

  駅に戻りがけに人のよく入っているビヤホールに入って、また人の数を増やした。とにかくtwei beer!想像していたほどうるさくはない。0.5Lで2.4DM。賭けをしているらしき数人のグループから何か悪いことをしたのか、1人がつまはじきにされた。貫禄のある中年女性が(つまはじきにされた)片腕に包帯を巻いた男を店から追い出そうとして椅子を取り上げ、どこかにやってしまった。ネクタイをしめて、飲んでいる前のおっさんにどうしたんだと聞いたら、He is crazy!といった。せせら笑うようだった。

 

  我々のテーブルにはあと2人(おっさん含む)合席していたのだが、右手のおっさんに会話集をもって近寄っていったら、ぽつりぽつりとコミュニケーションが成り立っていた。この店がどうか、相手の名前、どこに住んでるか、商売は何か、から始まって、日本語のコーチ、腕相撲にまで及んだ。日本語は数字の1.2.3.とはい、いいえを教えた。彼は大声でそれを復唱した挙句、手帳に書き留めていた。このあたりから前に乗り出して来る。1.2.3.が特に気に入ってなんどもサン!といってビールを注文するのだ。3杯目のことかと思っていると、3杯頼んでおり、我々の前にも運ばれた。それが何度か繰り返されるたびに、おっさんのコップしきにボールペンで線が書き加えられた。ドイツのビヤホールではジョッキの数を控えるのにコースターにマーキングする。1杯目は印なし。2杯目になるとコースターの端に棒を2本ひく。それが1杯ごとに1本ずつ増えてゆき、やたらめったら飲んでる奴のコースターには棒が円のように並ぶ。

 

  このおっさんとの話が、空手や柔道、東京オリンピック、戦争の三国同盟(日・独・伊)のことまで話が来ると、何故か腕相撲をすることになっていた。薫が言い出した。おっさんも乗り気で、くるみが審判をし、テーブルの上を片付けた。

  左がだめだというので、薫は利き腕ではない方の右腕で勝負した。圧倒的に薫が勝った。薫がわあーと喜ぶ向こうで、おっさんががっくりと首を垂れてハゲ頭を見せた。本当にショックを受けているようだった。彼は昔、フットボールをしていたとかで、腕も結構太いし、力自慢のようだった。しばらく沈黙があったあと、(このときくるみはまずい雰囲気だなと思った)おっさんがまた同じ腕で勝負を申し込んだ。2回目。2人とも真っ赤な顔になって頑張った。何かのはずみで手が滑り薫の手の先の方を持たれ、力が入らない態勢になってしまった。空中でもみ合った末、おっさんが勝ちをしめた。薫が「今のはずるいよ、手の先持たれて力入らへんねんもん」と言ったが、おうようにも負けを認めておっさんに華を持たせた。(薫弁) おっさんは生き返ったように嬉しそうににっこにっことしていた。

 

  このおっさんは年齢41歳、長髪で鼻の下にひげをたくわえている。頭のてっぺんはうすい。技術者らしい。17歳と10歳の子供がいると言っていた。日本とドイツが手を組んで戦争をしたと言ったので、くるみが「イタリアも」と言ったら、「Italien!」と叫んで手でシッシッとやった。日本とドイツは両手で握手の真似をした。

 

  途中から来た男女も最後の方では、我々の話に加わっていた。男は、おっさんとは違ってドイツ人には見えぬ風貌をしており、小柄でペルシャ人のようだった。女はぶくぶく太っており、誰が見てもブスだった。よせばいいのに、それがコンプレックスになっているらしく、世界が歪んで見える顔をしていた。

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少し、日本人のことを批評しているらしかったが、全く気にならなかった。おっさんとも写真を撮ったが、そのカップルを撮ろうとしたら、醜い上にあかんべえーをした。やはりこじれた人だった。こじれるからいっそう醜くなるのだよ、と心の中で言ってやった。この人とも最後の方では乾杯をし、握手した。しかし、ブスを嫌うこちらにもこじれさせる一因はあるのだろう。

  くるみはトイレから帰る途中、千鳥足になってテーブルにぶつかり、みんなに笑われた。ドイツ人は女の人でさえジョッキ10杯は飲むという。おっさんは15杯。くるみはビールが飲めないと言ったら、おっさんはコーヒーをとってくれた。これも彼もコースターにつけられた。

  9:00前には薫の頭も回り出したので、列車の時間が迫ったと言って、別れの握手をみなとした。おっさんが我々のコースターをとって自分が払うというので、すまないと思ったが、ごちそうになってしまい、外に笑いながら転がり出た。(時間と身体がもてば、もっと飲みたかったなあ。)2人で「タダやった、タダやった、あんだけ飲んでタダ!」と叫びながら*1、駅までよたっていった。と思われる。

  この勢いでくるみは地下トイレのバー(50ペニヒを入れぬと回らない)を乗り越えてタダ便した。薫はトイレの写真を撮った。

 

  ロッカーから荷物を出し、カートに乗せてホームへゆくともう既に電車は入っていた。結構乗り込むらしい人も多いようなので、急いで手近なドアからコンパートメントへ繰り込んだ。1等。いつものようにシーツを出してもぐりこんだ。*2発車まで1時間余りあったので、狸寝入りしているうちに薫がいびきをかいた。

  ドイツ人の団体客(6~7人)がやってきて、おっさんが慣れぬ英語で「Hello」と言ったが、知らぬふりをしたら、しばらくそのまま佇んだ後、行ってしまった。この後、彼らの合唱が賑やかに聞こえ、談笑もはずんでいたが、やがて寝入った。

*1:薫と2人で「ミュンヘン、えらい!」と大声で言いながらよたっていた

*2:薫は大きな声で「絶対どかへんからな。」と何回となく叫びつつ寝入ったらしい。