10月28日 食物あれこれ

  NORMAのSpeckは、脂味と筋が多く、食いちぎりにくい。黒パンはうまし。ワインはミュンヘン製だと思って買ったが、ユーゴスラビアのものだった。かなり変わった味。甘く、アルコール度が低い。通常のとは別種か。

  Pensionの廊下では夜遅くまで、おっさんがごろごろ群れていた。テレビを見ているのか、存在理由不明。ホテル側か客かもわからない。便所に行くたびに挨拶された。

  深夜、でかい声を出してドアを叩く音がしたので目が覚めてみると隣の部屋に誰かが抗議をしているのだった。大きな音でおそらくラジオのオーケストラがかかっている。いくらドアを叩いても解決されないようだった。薫もめいっぱい扉を叩いたが、ムダだった。しばらくして鍵をこじあけ、押し入ってラジオを止めたようだった。薫はいとも簡単に「死んでるのとちがうか」と言った。くるみは好局曲の目まぐるしい伴奏つきの夢を見た。群れている男たちはどういう種類の人間たちかもわからず、酔っ払いが死んでいてもおかしくない雰囲気があった。

 

  朝、りんごジュースとパンとスペック若干の食事を摂った。駅のロッカーに荷を預け、ミュンヘンのメインストリートを歩く。

 しばらくゆくと、台所用品を使って、説明を大声でしながら、露店で売っているのを見かけた。30過ぎのがっしりした美人のおばさんが1人でやっている。その語り口は、すさまじく早い上に、リズムに乗っており、人の輪が周りにできていた。台所用品とは、野菜や果物などをスライスしたり、微塵にしたり、おろしたりする万能小道具である。これを使って、力強く、どんどんトマトやキュウリを切り刻んでゆくのである、あっというまにりんごやオレンジやキュウリのスライスができあがり、次には太めの線切り、キャベツの線切り、もっと細い細切り、玉ねぎのみじん切り、これでもかといわんばかりにたたみかける迫力はすさまじい。言葉が通じなくても、多くの外国人を魅きつけていた。しっかりして凛々しいだけでなく、愛想がいいだけでもないところに交換を持った。しばらく見入っていたが、ちょっと迷った末、28DMを投じて買った(フルセット;コンプリ)。

 

  この先にゆくと、ピエロの装いをした男が、青天井の下で手品をしてみせていた。かなり多くの人が集まっていたが、金を集めて回る段になると輪から外れて行く人も多かった。なかなか手品の本ネタにならないので、我々も飽きて出た。

  くるみがコーヒーを飲みたがったので、店を探し入った。NEW CITY HALL(?)という大鐘楼の1階にある。駅からメインストリートを来ると、急に道幅が広がったところがある。人形時計のついた塔のついた建物である。

  店は、コーヒーや紅茶の量り売りをおそらく専業としており、コーヒーが飲めるのはその片手間の商売のようであった。1階は立ち飲みで、2階は坐って飲めるように(店内を見下ろしながら)なっているように見えた。我々がいたときは2階には人がいないようだった。コーヒーを飲むには、まずチケットを買う。すると、そばにいるお姉さん(メガネをかけ、あまり美人ではない)がテーブルまで運んでくれる。1.2DM(1杯)とドイツにしては安く、なお且つ旨い。例の原料売りと加工の結託である。

 

  写真を撮っていると見知らぬおっさんが何でかWonderful!と言った。店員がいるカウンターの内側には、かなり大きな黒人の女のイラストが入った壺が数個並べられている。コーヒー豆が分類されて詰められているようだった。これがオリエンタルなムードを醸していた。蛇口をひねると豆が適量出て来る仕組み。壁の棚には、日本風の急須や湯のみも、紅茶ポットに混ざって並べられていた。(BURKHOF KAFFEE) Malirnplaz 時計台下。

 

  1:00前、ドイツ博物館に着く。青少年が多く来ていた。ボタンを押して各種装置を動かし、自分で楽しめるようになっている。アグリカルチャーのコーナーではチーズづくりの家や酪農場の様子を模型で作ったものがあった。これが以上に精緻にできている。養鶏場などは、よほど目を凝らさないと見えないところにまで気を使っているようだった。これはドイツ人気質と呼べるかもしれない。くるみはパンの造り物が気に入り。写生をした。

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写真のコーナーに行く頃にはくるみの疲れが極点に達し、薫も頭が痛くなっていたので、早々に退散した。ちなみに、ここの博物館はフランスと比べ、ちりひとる、ホコリひとかたまりも落ちていず、床はつるつるに磨かれていた。入場料1人3DM。

 

  ふらふらしながら毛皮デパートの脇を通ってメインストリートに戻る。看板につられ、ステーキ屋に入る。お勧めメニューのSpare Ribを2つとビールを注文した。これを注文するとき、SalatはいるかとかPomn Friはいるかとか聞かれたが、何もいらないと言った。黙っていると、外国ではどんどん追加されてしまう。どうもSpare Ribは何もつけ合わせがないらしい。ビールが先に来た。ローエンブロウというビールだが、少し大きい気がしたので、勘定書を見ると間違って0.3Lのところ、0.5L(3.3DM)のが来てしまったらしい。薫は『ちゃんと指差して頼んだのに』大きいのが来てしまったので、金をより儲けようとして故意にやった、と怒った。くるみが見るところでは、ここのウェイターはどうもイタリア人らしく、わざとではなくちょっと抜けているのだと思い、薫を宥めた。

  メニューを見ると、ところどころに英語やドイツ語ではなく、イタリア語が混じっていた。Spare Ribeが来た。直径30cmくらいの皿に草履のように大きいあばら骨付き肉がのっている。日本でみる肉付き骨とはずいぶん違うし、値段も8.5DMと安い。

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上に、チリソースのような赤い甘辛のタレが(あこうだいの味噌漬けのような色)ついていて、黒く焼き網のあとがついていた。袋入り紙お手拭きが4つついてきたところを見ると、どうも手を使って食べていいらしいので、2人して手をぎとぎとにしながらむしゃぶりついた。くるみはそうは思わなかったが、くるみが「どうもお前の方がついている肉の量が多い。」と恨めしそうに言った。「骨の大きさも違うぞ」ととても憤慨した様子だった。

  サービスも税金も席料もとられなかったのに、どうもすっきりしないかんじで店を出た。店を出るとき、間抜けのウェイターに注文しないものが来た、と苦情を言ってやったが、あまり表情が変わらず、やっぱり元々間抜けであることがわかった。

 

  その店を出て、数十歩行くと、CHARRASCOというSteak Restaurantがあり、今ひとつ満たされぬものをここで埋めることにした。看板(写真入り)で見たチリコンカーンとビーフシチューの親戚を頼む。店のつくりはASADOほそではないがまずまず。山小屋風造りでテーブルには蝋燭が灯してあり、ところどころに牛の皮(白に黒のまだら)を壁・椅子に貼り付けてあった。

  チリコンカーンはささげが入っていて甘いようで辛いようで美味しかった。ビーフシチューはたったの4.2DMで、上にグリーンペッパーとザーネ(生クリーム)がたっぷりかかっていた。くどくなく、ペッパーの味がきいて、Spare Ribでいっぱいになったお腹にも美味しかった。肉もよく煮込まれていた。パンもついていた。飲み物は、と聞かれたが、No drinkと断ると、Water?とまた聞いた。それも金をとられるので断ったのに。しばらくすると、食事と一緒にグラスと水差しが運ばれて来た。おまけにレモンの厚切りまでついてきたので、ウェイトレスを呼び止めて聞くと、水の中に入れるのだという。あまり、至れり尽くせりなので2人とも疑心暗鬼になって「絶対金とられるぞ!」と言い合っていた。しかし、勘定書を見たら、2つの料理の他は、パン代もサービス料も税金も、水代も席料さえもとられていなかった。また来るのに値する店だ。人には教えないでおこう。

 

  まずHELTIE。刃物は数が少なく、英語も理解されないので残念。そのかわりカーテンテープを6m買った(6DM)。6:00すぎにはあちこちの店が閉まるので急いでALBERT&LINDNERに行った。工具屋さんのような店で英語がわかるという店員も、だいぶ理解度が低かった。また媚も少なかったが、真正面から教えてくれる印象があった。小型の折りたたみナイフ(ゾリンゲン製)の中から1本を選んだ。これはデザインが洗練され、持ち具合もいい。刃の背が少し反ったようになっている。うすうすいいと思っていたが、やはりこれになった。刃の根元に目のマークがついている。確か、たまたま10年ほど前、彩美堂店主に勧められたゾリンゲンのはさみと同じ紋章だった。喜びいさんで店を出てから、また店に戻った。ナイフとフォークを見たのだが高いので、よした。最後に、F.WIDMANNという店にひやかしに行ったら、くるみがそこで日本語のできるおばはんにつかまった。全体的に高値の品をそろえた店だった。但し、ナイフは良き品見つからず。土産物をそろえており、接客態度から見て、観光客向けの店と知れた。早々に退散。やっぱりALBERT&LINDNERのような実質本位の店が好きだ。誰にも教えないでおこう。ローマ行きの発車時間にはだいぶ間があるので、メインストリート(Neuhauser Str.)で時間を潰すことにする。