グラナダ パティオのある宿 12月7日火曜

 ALGECIRAS(アルヘシラス)から11時5分発の列車に乗ってグラナダ に向かう。

今日も7時間と長旅だ。時間があまり無かったが食糧がないので、くるみが走って

買い出しにゆく。駅の掃除のおばさんに聞き、市場までゆき、みかんとパン2個

ハム100グラムを買う。探すのに手間取ったため、時計は10時59分を指していた。

あわてて全力疾走し、5分掛かるところを2分で駆け戻った。走れメロスさながら。

大急ぎで列車に乗り込み席を占める。

  あまり座り心地は良くないけど、きれいな列車だよなあ、と薫は今更のように

RENFEの車内を見回す。モロッコとの落差は大きい。呆然としたまま、窓外を見やる。

駅もきれいで、鉢植えなどたくさん飾った駅もある。大きな駅名標示と丸い時計、

そして列車発車合図の鐘が大抵の駅にある。

 駅長さんが鐘から出ているくさりを引っ張ると、カランカランと音が鳴って

合図になる仕組み。途中、籠にはいった旨そうなパンを売りに来たので、

つられて買う。35ペセタ。ここでもモロッコと比べて清潔そうに見えてしまう。

  

  山々に白い家々が張り付いた風景が延々と続く。オリーブ畑というか、オリーブ林を見ているうちに、グラナダ駅到着。市街地まで少し遠いので、贅沢をし、バスに乗る。楽ちん。2人で52ペセタの出費はあったが、あっと言う間にたどり着いた。

 

  ツーリストインフォメーションは、立派な建て物の中にある。陽気そうに太ったおじさんが一人でやっている。妹尾河童の本に出ていたHostal Alhambraを聞くと、ささっといとも簡単にかつ自信ありげに教えてくれた。トレべ、3B、三拍子揃ったレストランも2軒教わった。あまりに我々が驚き感心するので、おじさんは我々を喜ばせようとして、ありとあらゆるパンフレットや資料やらをくれ出した。とうとう、グラナダ

2都市の拡大地図付き雑誌まで皆がいなくなった後くれた。ここは何だかものすごく、

現在地を示す地図やら時刻表、小冊子、パンフレット、レストラン紹介などありとあらゆるものを備え、或いは貼り付けて利用しやすいようにしている。しかし、その加減が

只事でないので驚いた。今日はもう遅く資料を十分活用できないので、アルハンブラ宮殿ホテルはやめて、CHにゆく。セビリアのように狭くて小便くさい小径を通って

教えられたように、11の扉を叩くが誰も出て来ない。近所のおばさんが石段の上を

指差すと、そこにCHの札があった。住所が24だけど、まあいいや。扉を叩くと、どこからか声が聞こえ、黒い髪の中年のおばさんが出て来た。これから出かけるのか、

黒いコートを着ている。少し淡谷のり子に似ていて、きつい顔をしているので、

くるみ、少したじろぐ。自信をもって教えてくれたにしては、あまり雰囲気もなく

取り立てて綺麗そうでもないので、拍子抜けする。

 

  一階の部屋の電灯が壊れているので、電気スタンドを持ってきてくれたが、

断って別の部屋へ。トイレ付きで800ペセタの部屋を700ペセタに。

しかし、この部屋は変わった部屋だ。壁紙、装飾などどこもおかしくないのに、

ベッドの配置がTの字になっている。部屋が細長いためもあろうが、何となく普通でない。炊事場のようなスペースにあるテーブルに、上を向いた気味悪いキリストの

絵が置いてあるのも不気味で頂けない。トイレはもっとユニークで、蓋を十分

開けられない。背中で押さえながらするのかな。一応、毛布は十分掛かって

いるので、安心。おばさんとその友達は晩8時半まで外出。我々も夕食に出る。

  インフォメーションで教えられた店、メゾン・アンダルースにゆくと、店は

真っ暗。付近の店で空いているところもない。

 仕方ないので、もう一つのNUEVO RESTAURANTEにゆくが、ここも閉まっている。

営業時間を見ると、午後8時からとあるので、しばらく歩き回ることにした。現在

7時半。薫がお腹が空いたと騒ぐので、BARに入ろうとするが、なかなか見つからない。通りすがりの小太りのおっさんに聞くと、その店も閉まっていて、もう一人の

背の高いおっさんに聞いてくれた。ふたりで会話した後、付いてゆきなさいというので、この背の高く動作ののんびりしたおっさんにくっついて横丁のBARに入る。

おっさんは店のマスターを呼び、我々を指して、何事か言い、店を出て行った。

我々は乾いた喉を潤すため、ビールで乾杯。つまみにレバーの煮たのと、パンが少し

付いて来た。薫が2杯目のビールをお代わりして飲み干した頃。先のおっさんが店に

入って来た。飲みに来たのかな、と思って見ていると、我我を見つけ、店主に

100ペセタ札を渡した。釣りの5ペセタ銀貨がカウンターに置かれた。

しきりに話しかけてくるが、非常に聞き取りにくい。

  コップの上方を指しているので、別の店にゆくのかと思い、店を出ることにした。

勘定をしようとすると、店の人はおっさんが払ったと言う。小銭の持ち合わせが無いので不本意ながら、おごられてしまう。おごられる由縁は何もないのに。

訝しく思いながらも、あとについて歩く。trabajo,muy duro,comidaなど言っているが、

話の内容まで分からない。時々、立ち止まっては何かを思い出そうとしていたが、

ある角で、ここでちょっと待っててくれと言い、残して立ち去った。

 

  あまりに訳がわからぬのと、おごられた気味悪さで迷っていると、くるみが

”悪いけど、行っちゃおう”と言っているところに、タイミングよくおっさんが

現れた。

何を食べたいかと聞き、」ボカディージョ(ホットドッグ)でもいいかと言うので、

店を教えてもらい、とんずらしようと思いながら付いてゆくと、店の中まで

ついて来て頼む世話までしてくれそうだ。

また、おごられてはあとに引けぬので、別のレストランにゆくと言って悪いがさよならした。

 

  途中、跡をつけて来ないかと、後ろを振り返るほど、うすきみのわるい気持ちだった。一体あのおっさんは何の目的で異常な親切を我々に施したのか。何かを売りつけるつもりだったのか、それとも奇怪なBARに連れてゆき、ぼるつもりだったのか、それともきつい労働を斡旋するつもりだったのか、全くの善人すぎて、不気味に見えたのか。それともこの辺りで有名な

恍惚のひとだったのか、なかなか正体が見えにくい。

友達らしき人と挨拶を交わしているところを見ると、フツーの生活人かも知れない。

 疑心暗鬼には、止め処がない。

 悪い事が起こった時には分かるが、何も起こらない、いわば無事な場合では、ただ現実が進行してゆくだけなので、気がつかない。

 

  色々考えながら、NUEVO RESTAURANTEに入る。どうもモロッコ帰りは世の中が歪んで見える。

新食堂という名のレストランは8時を少し回ったばかりだのに、もう店は客でいっぱいだ。

カウンターが細長いUの字になって作られており、椅子が少ない。立って食べている人もいたので、我々も見習う。

ここは、プラト コンビナート、組み合わせ皿料理で有名な店らしく、25‥26の組み合わせの中から好きなものを選べる。ぱんとデザートもつく。飲み物は別。安いのは130ペセタからある。

薫はマカロネス、トルティーエスパニョル

いわゆるスペインオムレツにレタス、トマト付き。

くるみはマカロネス、ミートボール3個にポテトサラダ付き。これにワインとフルーツサラダを足して食す。

マカロネスは柔らかいが、ボリュームもあり、トマトと豚バラ肉の味がよく出ていて旨く感じる。

フルーツサラダは、りんご、黄桃、オレンジ、バナナ、パインナップルを細かく切ったもので、あまり甘過ぎない冷たいシロップに浸かっている。りんごが多くサクサクした歯応えも

さっぱりしておいしい。2人で495ペセタ。

小銭を多く出したせいか、先方もこちらも

計算違いをした。概して、スペイン人は計算が苦手なようだ。

 

  部屋に戻って寝ようとしていると、音を立てずに階段を上がって来て、物も言わずにノックした者がいた。泥棒かなと訝しんでドアを開けると、オバハンが毛布を持って突っ立っていた。これで日本のように厚い寝具に埋もれて寝ることが出来た。

Tの字に配されたベッドに横になり、ふたりは

Tの字の関係のまま眠る。

トイレの窓にはデンマーク銀貨をはさみ、ロックにした。これで万全。入り口近くにくるみが寝た。この冷たさは何だ。黙って就寝。

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