寒波到来、イカ食う日々 2月12日土曜日

   目覚めたら11時近くであった。窓を開けたら雪が降り積もっていた。パンもミルクもないので朝食ができず、まず、市場に食料の仕込みにゆく。時間遅いためか市場はすごい混雑。珍しく雪が降ったり寒波が到来したため、皆、台風に備えるように蓄えを買い出しに来たのかもしれない。その為、市場はいつもの土曜日よりもなお一層の活気を呈しており、(どちらが生かわからぬが)品物も豊富で新鮮のようだった。今週もまたPaellaとカレーをやるつもりで材料を書いてきた。イカについては、くるみの前のおばさんのマネをして、550/kgの墨抜き骨抜きセピアを1つと600/kgの墨つき小つぶを300gもらった。どうもスペインではただのイカ、でも用途によっていろいろ違う種類を少しずつ買っているようだ。結構、いか1つとえび3つとかいう買い方をしている人は多いし、店の人も全然それを嫌がっていない。その方法にならったというわけ。

 

  鳥1羽は今回はよく調査してから買った。出口近くの鳥屋が異常に混んでいるので吊るされた鳥を見たら、結構新鮮な色をしていた。どう違うかというと、腹のあたりの皮の色が白っぽく少し透けて見える感じなのだ。鳥の皮は黄色いもん、と決めつけていたので、少し衝撃だった。ぐるりと一回りして鳥屋を覗くと、そう大差はないのだが、色が微妙に違い、皮の張りも少し違うように思った。前買った198/kgの鳥屋は今日も客が少なかったので敬遠。先に書いた長い列のできた鳥屋で待ったが、どうも皆ここではウサギをたくさん買っているようなのでやめた。どうしたわけか、ここでもその他の店でも今日はウサギがよく売れているようだ。うなぎの日のように、ウサギの日というのがあるのだろうか。いつ見ても気味悪くなるようなウサギの皮が剥けたのを皆、無表情に買ってゆくのだから、気が知れない。

  どこが気持ち悪いかというと、人間のようなびっくりした黒い眼をしているのと、手足をつっぱった形、むかれて赤くなってツルッとした肉がなんとも不気味なのだ。またそれをハサミでちょきちょきちょんぎるわけだから、本当に見ていられない。薫が見ていたところによると、内臓をとったウサギ(肝臓はついている)は、股のところから真っ二つにハサミでちょんぎられ、最後に目玉のところをクリッと押すと、ころりと眼が飛び出すという仕組みとか。まるで誰かの推理小説に出てくるような情景ではないか。

 

  結局、綺麗なお姉さんのいる、比較的大きく、コンスタントに流行っている店で鳥を買うことにした。

 

ここは225/kgと少々高いが、8つに切って内臓・頭・足は別にビニール袋に入れてくれ、親切だった。1羽で385pts。いつもが370前後だからたいして変わりがないのが意外だった。この他玉ねぎ・人参・マッシュルーム・他を買い、帰りにオリーブを買い、卵を買った。そういえば牛肉屋でも卵屋でも薫がカメラを向けたら店の人はたいそう喜んだ。特に、牛肉屋では日頃無表情で肉を切っている体格のいいおっさんと、つんとした感じの顔がかわいいおばさんが二人とも急に笑顔を見せて人懐っこくなったのは意外だった。ちょうど、おばさんは朝食か昼食か、パンをかじっているところで、それを狙ったのだが、カメラを向けているとわかると食べるのをやめて、「やーね」というように手で叩くマネをした。おっさんはなんのカメラか、というように首を突き出し、自分も日本製のを持っているように「Nikon」と言った。そしてそれは香港で50000ptsで買ったということだった。くるみが「F-2(dos)?」と聞いたら、少し考えていたがどもりながら、「S,si」と相槌を打った。

   卵屋ではまだ生きている小さいカタツムリをとった。店の若主人は「fotoより食べないか?」としきりに勧めたが、「日本では食べない」と答えた。

  スーパーに行って牛乳や米を買ってのち、パン屋に行ったら、何とパンは1本も残っていなかった。今日は全部売り切れでこれしか残っていないとパイやら菓子パンを指差した。お腹の足しにならないし高いので、袋入り食パンを買うが、これも高し。78pts。いつものパンの半分くらいで倍の値段だ。みんな買い溜めしていると見える。宿に戻り、買っていたりんごのパイとCCL、ソーセージサラダのわずかな残り。それにキャベツのスープを取り、遅い昼食を終える。

 

    外はまた雪がちらちらと降って来ていた。そういえば、市場に雪だるまが作ってあった。頭には黒い帽子(毛糸)を被り、首に襟巻きをして、目はレモン、鼻は人参、口はピーマン()だったかもしれない。日本のは目は炭団、鼻やまゆげは墨でできているのだから、やっぱり顔の構造上の違いは雪だるまにも表れると見える。

 

  風邪をひいたらしく、しきりに鼻が詰まる。Cadaquesよりマシだが、ここBarcelonaも相当冷え込んでいるようだ、皆ちょっと雪が降っただけなのに、大層にスキー用ブーツを履き、ダウンジャケットを羽織って歩いている。しばらくしてから薫がビノ瓶を持って、ビノを買いにゆくと酒屋は休みだったと言って帰って来た。雪が降ったから早く店じまいしたのかもしれない。受付の無愛想にいちゃんにシャンピニョンを煮るのには赤か白か、と聞いたらしい。そしたら兄ちゃんは考えて「白」と言った後、ゆっくり考えながら、「Do you like wine?」と聞いたということだった.

 

  夕飯の時間が近いので、Paellaの準備を始める。鳥はやっぱりすごく新鮮で、身が透き通っているようだ。くるみが骨を外しにかかる。胸肉をつまみ上げたとき、白い膜のかかった黒い玉(直径2cmくらい)がくっついていたので包丁でさっと払い落とすと、ころりんと転がって、うさぎの黒い目玉が逆さになってくるみを見た。ぎぇ~~~~!ぎゃ~~~~!気持ち悪いよう!ひぃ~~~~!!と言ってひきつっていたら、薫がわははと笑って慰めてくれ、目玉をつまんでぽいと捨てた。「目玉って意外と柔らかいんだな」しかし、薫は鳥の目玉だと思っていたらしかった。しばらくショックでくるみは鳥の解体に取り掛かれなかった。やっぱり、どうしてもウサギだけは食べたくない。絶対に!

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Paella

材料;鶏肉200g/トマト小2/玉ねぎ中2/イカ70g/ムール300g/

  牛肉100g/牛骨大1/ローレル中1/セロリ茎2/ピーマン赤1個・青1/2/

  ピメントン(ピカンテ)/塩コショー/鳥スープ/白ワイン/レモン/サフラン/オリーブ油/

  ニンニク/米2合

これを2回分に分けて作る。

作り方の違い;

  1. 牛肉は強火で炒めてから骨と一緒に、ローレル・セロリ・みじん切りにして茶色になるまで炒めた玉ねぎ、と共に煮る。あとからピーマンを加え、薄く塩コショーする。
  2. いつもは油ニンニク・鳥玉ねぎ・トマト米の順で材料を炒め、スープで煮るが、今回は材料、特に玉ねぎと鶏肉をよく炒めて茶色にするということを重点にするため、あとからトマトを加えて更に炒め、皿に取り出しておき、鶏肉とニンニクはまた新たな油でよく炒めた。
  3. イカはよく味が出るように少し長く煮た。その汁も鳥スープと一緒に入れた。ムールを煮た汁も然り。
  4. ①の牛肉は汁を入れて煮込み出したところから加えた。
  5. サフランをすりつぶして混ぜた。

以上によって、今までに比べ、驚くほど黄色いパエージャが出来上がった。味もかなり濃厚で、バランスも良い。ムールも殻から身を外したので食べやすく、実質本位のパエージャとなった。よく煮込んだピーマンの果たす役割も大きいことを知った。でも何と言っても大きいのは、⑤のサフランを潰したことにあるようだ。

  手でつぶすにしても包丁で刻むにしても限界があり、すりこぎでするように粉にはならない。粉にならないと、どうしても味や香りが全体にゆきわたりにくいというわけだ。なるほど。野菜をよく炒めた効果はどこにあるのかよくわからぬが、牛肉を別鍋で煮たのはよかった。Saritaで出て来た牛肉のような(それに近い)味がしたようだ。あとはオーブンを使って上部の水気を飛ばせば、もうかなり本格派となるだろう。

  2回に分けてパエージャを作ろうとおもっていたが、1回目でお腹がいっぱいになってしまったので明日の昼食にすることにした。食後、薫はイカの墨煮を作った。初めてイカの解体をした薫はひゃあひゃあと一人で奇声をあげながら、軟体動物をいじっていた。

 

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セピアというイカども

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自分の墨の中にいるイカ


  ああ、そうそう。夕食の支度をしているとき、母親から電話があった。バルセロナで雪が降ったことを知っていた。テレビのニュースで映ったらしい。それと、手紙の返事が来ないので何かあったのか、どうしたのかと心配していたらしい。一応,3512時に成田に着くことを告げ、手紙も出したことを言ったら少し安心したようだった。電波の関係か、今日も母親の声は泣いているように聞こえた。薫ちゃんは?と聞くので、今お料理してると言ったら、少し笑って、こんばんはだけでもいいから出して、と言った。どうも大分気が弱くなっている気配。電話があった後に、「親が心配性だとこっちが心配になる」と言ったら、薫に「育ててもらったくせに」と言われた。

  今、薫はガーガー得意の音をさせながらお風呂に入っています。外の雪は残念乍ら止んだ模様。薫の予定の雪のサグラダファミリアは中止となりました。残念でした。またどうぞ。おやすみなさい。