寒風すき荒ぶ漁師町 カダケスCadaques 2月11日金曜日

  仲々快適な寝心地ではあった。その原因は、シーツも毛布カバーにある。洗濯仕立ての 

匂いがして、のりがピンと効いているのが、いつもアパートの毛玉のざらざらとついたシーツやクレープ地のように細かい縦じわのいったホステルシーツに寝ている我々にとって気持ちよかったのだろう。ベッドも簡易に見える割には、マットがしっかりと固いので腰の落ち込みが思いの外、少ない。まあとにかく暖房も効いていたし、温かく寝られたわけだ。

 

  朝は早起きしようと思っていたが、830分に目覚めた。朝の空気が透明なうちに、なんといっても、ここCadaquesのシンボルの方な教会を撮るため。今日は天気がよく空も晴れわたっている。昨日と違って陽も出ているので少しだけ暖かい。しかし、日陰になると風も冷たく、恐ろしく寒い。この小さな半島の中だけでも位置によって随分温度差があるのではないかと思わせる。入り江から見て左手の道を散歩した。しかし、どうもこちらは傾斜も少なく、教会を撮ろうにもクレーンが邪魔して思うように絵にならぬ。トンネルになった道を入れて教会の写真を1枚だけ撮った。仕方ないので、右手の道を少し行き、レンズを覗いたが、仲々これも思うようにならず。この道は横に岩が切り立っていて、日蔭になっている上、寒く強い風が吹きまくるので、縮み上がるほどの寒さだ。くるみは風に顎をやられた。(帰ったら寒さでボツボツの蕁麻疹になってかゆかった、寒冷蕁麻疹) 

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Cadaques カダケスの教会と入江寸景

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カダケス遠景




 

  多分ここいらで一番大きなcaféに入って朝食をとる。昨日からこの店には漁師か何か知らんが、暇そうなおっさん達がコーヒーも飲まずに中でひなたぼっこをしているのを見ていたので入ったわけだ。飲み物を提供するカウンターはそのひなたぼっこの席の奥手にあり、薄暗くて、思いの外、活気のないおっさんが1人で陰気にやっていた。CCLとドーナツをもらう。CCLはコーヒーの酸味が強くミルクが少ないのでちょっと参った。今考えると、インスタントコーヒーのような、やけに変わった味だった。我々が飲んでいる最中、端の方でCCLにブランデーの入ったものを飲んでいた人がそのコップを指さしておっさんに何か文句をつけていた。おっさんは、それを取り上げ、矯めつ眇めつしたのち、カウンターの中に下げて、それから牛乳の瓶を持ち上げて、その客に「これだけど」というかんじで振って見せた。どうも「ミルクが悪くなっているんじゃないか」ということらしかった。この店ではcaféは例のエスプレッソの機械で作り、ミルクはsimagoのようにタンクで温めている。瓶のミルクは大丈夫でも、この中で長時間温められすぎたミルクは蛋白質が固まってしまったり、少し変質することもあるのかもしれないと思った。

  あとで薫に話すと、「あんまり良心的な店とちがうな」と言った。CCLはやたら高くて150pts。ドーナツ30pts。この店には写真(大きく引き伸ばしたもの)が何故か飾ってあり、どれも仲々よく撮れていた。Gitanoが住むような貧民部落の写真があったので、Cadaquesかと聞くと、おっさんはとんでもない、というように、「No!No!」と言ってBarcelonaだと答えた。

 

  Hostalに戻って一休み。ちゃっかりCalefaccionは切ってあって少し冷える。けちんぼやなあ。11時過ぎ、ここを出るつもりで階下へ行くと、おばちゃんはいず、ここの息子らしい。丸い顔にひげを生やした柔和そうな青年が近寄ってきた。暖炉の前では、少し意地の悪そうな痩せたおっさんが本を読んでおり、めがねの奥からこちらをちらっと見て、さかんに犬の名を読んでいた。犬はここでもシェパードの大きいやつで、青年にさかんにじゃれついていた。棚の上に魚の絵のついた楕円の皿を見つけて、薫が「あ、これ、あの陶器屋で売ってたなあ」といい、よく見ると、仲々よくできていたので、ここを出てからまた昨日の陶器屋へゆく。

 

  店は真っ暗だったが、ドアは開いていた。おっさんがちょっと顔を出し、女の子に変わった。Hostal MARINAに置いてあるのと同じ皿を見つけ、他の同じもう1枚と見比べて選ぶ。だいたい魚の形・顔・色など似たりよったりだが、あごの形の良い方を選ぶと、それには少しヒビが入っていた。それを指差して、問題ないかと聞くと、「popular」だという。やっぱり、スペインではトレドの陶器屋のおっさんのいうように、少々のヒビや割れを気にしないのだろうか。このあと、値段を値切ろうとしたが、何せ融通の効かぬこのお姉ちゃんなので、(たぶん傷がついているから値切ろうとしたのだと思ったんだろう)頑として譲らない。どうせ買うんだし、ここでは値引きの習慣がないようなので、妥協して正価で買う。飛行機で持って帰るから、と言っても、ただ紙で包んだだけでよこすので、横に積んであった段ボール箱にて周りを覆ってもらう。これもまた一苦労。

 

  Restrante Saritaの開く1時まで間があるので、Barに入ろうかとも思ったが、せっかく来たのだからと寒中散歩をすることにした。入り江から見て教会の左手奥の小高いところに登ってみる。ここからは教会を含む町全体と入り江がよく見渡せる。気になるクレーンもあまり目立ちにくい。何枚かか写真を撮った。この丘にのぼる途中、塀の上にいくつも大壺を置いた家の写真を撮ったが、ここからもまたその家の花を植えた大壺がいくつも見渡せた。道にはほとんど人が歩いておらず、大きな犬やら猫やらが歩き回っているだけであった。

 

  1時近くなので、Saritaにくり込む。昨日来たので慣れたか、おばさんはどうぞどうぞと手招きして愛想良い。Menu del dia2つ。今日はEnsalada Catalana Paellaという献立。Ensalada Catalama1°platoだからといって、侮ってはいけない。ハム3種・卵・オリーブ他野菜各種は新鮮で彩りも鮮やか。飾りつけも綺麗で、ボリュームもある。絵では、ハムが小さくなってしまったが、本当はもっと大きかった。ピメントン(ピカンテ)漬のハモンセラーノが美味。これは良い土産になりそう。ドレッシングはついていないが、酢とオリーブ油をかけて自分で調合して食す。飲み物はVinoを飲むとだるくなるのでagua mineraleを頼むと1リットル入りの大瓶がどーんと来た。昨日の教訓を生かして今日は旨そうなパンに手をつけず。しばらくしてPaellaより奥行きのある味をしている。材料は、目に見えるものだけ言えば、イカ、タコの足、ムール貝、はさみつきの海老、豚肉、牛肉、鶏肉、きのこ(seta 黒色)、ピーマン(赤・青)、レモン、グリンピース。たぶんこの他に肉を煮るときの香辛料があるかもしれない。サフランの香りは全く感じられなかった。しかし塩だけでなく、醤油も使ったような味がしているのはどこに原因があるのか。骨つき肉とは別の薄切りの牛肉には別に煮込んだような薄味がついていた。それにできあがったパエージャの上に茶色いものが乗っかっていて、これも良い味をしていたが、どうもよく炒めて煮込んだ玉ねぎらしかった。米の色その他全体に茶色く色づいているのは肉の煮汁のためか。肉を煮るときにはどんなものを入れて煮ているのか。またあとで、ピーマンのゲップが何回もあがってきたところを見るとピーマンも標準以上に多く入っていたらしく、それもかなり柔らかくなっているところを見ると十分煮込んであるらしい。肉は3種も入っていて、どれも柔らかく旨い。たこが入っているのもアイディアだ。はさみつき海老の肉はカニと海老の合いの子のような味をしていて割と美味しい。今までとは違った種類のパエージャを食べた感じで、旨いチャーハン、旨い五目めしのようでもあった。仲々やるな。

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  一生懸命食べていると、おばさんが“¿Bueno?” と聞いたので、”Si, me gusta”と答えた。これで結構腹が膨れた上、Flan(これは自家製だが、たぶんインスタントだろう)を食べて、終わった。食後のコーヒーでも飲んでバスが来るまでの時間、ゆっくりしようと思ったが、ここではコーヒーの類はやっていないという。Postreを見てもそうだが、ここは純粋に料理を売る店で、デザートやコーヒーなどには力点を置いていないのかもしれない。薫が調理場の写真を撮らせてくれというと、「どうぞ」と答えてくれて中を見せてくれたが、中で調理をしている大柄なおっさんはゴツく見える割に感じ良い人だった。あまり熱心に撮っているので、おっさんは少し照れ、おばさんも恥ずかしそうに「muy pequeno」と言った。「pequeno,pero bueno」と言った。二人ともすごく喜んでいるようだった。ここの住所を、というと、おばさんはそそくさと引き出しからカードを取り出し渡しながら、いつ去るのか?と聞いた。くるみが「hoy」と答えるとひどくガッカリしたように、「寒いわね」と言った。これからも何回も来てもらえると思っていたらしかった。別れの挨拶をして店を出る。

 

  そういえば、この店の出口近くの壁にも魚の絵のついた飾り皿があったが、2匹の魚が泡を出して泳いでいる様子が結構よく描かれたものだった。店の外側の写真を取り、少しぶらついて、バスの停留所にゆくと、もうバスが来ていた。もうすでに最前列は陣取られていたので、後ろの方の席に別々に座を占める。

 

  今日は晴れている割に景色が白く霞んで見える。バスのガラス窓が汚れているせいもあるが。期待の写真は1枚しか撮らず。途中、バスが後続車のためにスピードを落として道を開けてやると、その車がブーブーとクラクションを鳴らしてお礼を言っているような感じなので、スペインの田舎ではまだ人心が廃れていないなと思ったりもした。昨日見た格好の良い電信柱は右のイラストのようなデザインである。軸はもうちょい細めかな。仲々すっきりとして、風景の邪魔にならない形をしていると、薫は大層気に入っていた。確か、これは数年前薫が本で見た電柱のデザイン(フランスかアメリ)だということだった。とうもろこしをたくさん乾かしている家など(少し離れた金網の中にもたくさんあった)ある畑の中の道を行くうちに、figuerasの駅前に着いた。

 

  まず列車の時間を確認したのちDaliの美術館へ。大したことに、あちこちにMuseuへの方向指示がある。それをたどって行くと、間違えずにMuseu Daliにたどり着けるというわけ。我々もそれに頼ってMuseuに着いた。聞きしに勝るけったいさだった。白い建物の上部にいくつもの彫刻が張り付いているのはともかく、大きなタイヤをいくつも積み重ねたてっぺんにやはり白い彫刻が座っていたりする。入場料は100ptsだった。台の上の大きなレンズから覗くと、女の人の顔に見える今の様子や、天井画、白い魚4尾に支えられたベッド他、けったいなものばかりで、まるでサーカス小屋の雰囲気だ。またよく見ると、中にはエロチックなものも結構あり、密かにというか、かなりスケベな人柄なのではないかと窺わせた。薫によると、「思ったより絵が下手」ということで、奇抜さで勝負しているのだろうか。少し下品でもある。しかし、仲々商売人であるのは、あちこちに金を投入しないと見えない仕掛けをいくつか作り、思いの外安い入場料の埋め合わせをしているようだ。

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  1階の絵画のみの展示室にはCadaques の絵があった。ちょうど薫が撮ったのと同じアングルで描いており、下の方に頭に壺を乗せた女性が二人歩いている。点数が多い上、どれもどぎついので、少々疲れてMuseuを出る。書き忘れたが、ここの館員はどの人も皆制服をぴちっと着込み、Daliに似たようなスペイン人にしては少し抜け目のなさそうなおっさんばかりだった。これら館員の人選にも気を配っているのかなあ。そしてまた彼らがよく気がつき、入るとき、ドアボーイのようにささっと歩み寄って来てドアを開けてくれるなぞ、まるでMuseuにあるまじき待遇であるのも、商売上手と繋がっているようでおかしい。

 

  ここを出た後、町中を少し散歩。レコード屋に入ってカセットテープを見たが、女店員の話ではFlamencoの有名な歌い手はCamelon他二人の歌手だったが、どの人も顔が気に入らず、やめた。カタルーニャでは土臭いフラメンコが流行らないのかなあ。それから陶器を置いている店をいくつか見たが、どれもこれといった取り柄なし。Cadaquesのしけた陶器屋(ここはあまり売れないので陶器の他に洗剤やら水コーラを売っている)にもよくあった、目玉のぐりぐりと大きい金魚が悪趣味に描かれた皿はどこに行ってもあったが。あれ、ほんとに売れてるのかな。欲しくないな。

 

  電車の時間まで駅前のBarにて時間を潰す。一歩踏み込んだ途端、たばこのもうもうとした煙と酒くさい匂いが鼻をついた。くるみCCL、薫Conac(Soberano)。駅にて切符を買ったら675と高い。Talgoだからだ。電車を遅らせてExpresoにして2人分386pts戻してもらう。出発の19:55まで駅舎内にて待つ。胡散臭そうなおっちゃんとか待ち合わせの青年たちとかたくさんの人々がたむろしていた。胡散臭そうなおっちゃんとはモスグリーンのベッチンジャケットを着た少し顔の赤い目のとろりとした男で、我々の真近にうろうろと寄ってきたので警戒したが、我々より前のTalgo特急に乗ったようだった。

 

  予定通り19:55に列車は発車。コンパートメントを2人で占領。持ってきたバナナとりんごの残りを平らげる。検札員の言った10:30より13分早くBarcelona Pg.Gに到着。Metroに乗り、急ぎ足にてアパートに戻る。ドアを開けると、ジョルディがトニー・ビダルからの封書を差し出した。写真展の招待状(案内)だった。ミロ美術館での初日だった。部屋は出た時と変わっていず、もちろんのこと火事で丸焦げにもなっていなかった。よかった。冷蔵庫に残ったものでspagetti carbonaraを作り、薫は足りないと言って、aglio olio もやって食べた。くるみはきゃべつとベーコン、人参、玉ねぎ、にんにく、トマトソース少々でスープを作った。この後、薫の耳をほじほじしてあげたら、ガーガーといびきをかいて寝てしまった。もう風呂に入る元気もないので寝てしまうことにした。おしまい。