南スペイン カダケス漁村へ 2月10日木曜日

  くるみ6:45のベルにて起床、ハンバーグを焼く。薫は仲々目を覚まさずもそもそと寝返りをうっていた。しばらくして起床。外は闇。パンを買いに丁稚のように使い走り。パン屋は6時から空いているということで、7時すぎにはもう客が3人来ていた。売り子は白髪でちょっと顔面神経症気味のおばさん一人。このおばさんは、くるみにとっては愛想が良く感じるらしいが、最近労使紛争でもあるのか随分疲れた表情をしていた。時間がないので、めいっぱい急いでサンドイッチ作り、朝食をすすめる。おかげで、メシのこなれが悪かった。

 

  最後まで慌てて予定より15分遅れでアパートを出る。Barcelona P.Gに着いたのは、8:25。間に合った。切符を買ってホームで待っていたが、46分を過ぎても列車が来ない。何度も駅員に確認し、待ちくたびれていると、9:20すぎにやっと到着した。8人掛けコンパートメントに2人で座る。ここは4枚のモノクローム写真(スペイン各地の)が飾ってある。特に上手くはないが控えめでよし。しばらくすると、走り出して霜がかかった風景が見え、もっとゆくと雪が降った後のようなので驚いた。バルセロナとはあまり離れていないのに随分気候は違うものだ。途中、隣のコンパートメントから食べかけの大きなパンのかたまりやらガラス瓶を割って投げていた。その他紙くずやらいろいろ飛ばしていたので行儀の悪い人だなと思っていたら、やっぱりあほそうな声を出していた。声にも知性は現れるものだ。

 

  Geronaの前あたりからあまり寒そうな風景は見られなくなった。FiquerasGeronaの次の次(Exprese)。一歩列車を降りると思いの外冷たい空気にさらされ、いっぺんに身体の暖気が飛ぶようだった。皆もそうなのか、駅前やホームにたむろする人は少なく、駅舎の中が人でいっぱいになっていた。駅舎を出てから少年にバス停を聞き、再度近くのおっさんにも。おっさんがついてこいというので、言ったら操車場のようなところにあった。となりの切符販売場にてCadaquesまでのbilleteを購入。1139pts。バスは観光バスのように窓を大きく開けたつくりである。我々の他、12~13人の乗客が乗り込んだ。珍しくアラブ系のおっさんもいた。しばらく田園地帯を走り、観光ずれした港町でUターンしてから山道を登る。ここからCadaquesまでの風景はいい。オリーブの段々畑が山に等高線のような模様をつけている。下には青い海と白い別荘が建った丘陵が見渡せた。山は、日本の山と違って、ごつく、象の足のように見えるが、よく見るとこんな山にもオリーブが生えている。段々畑は、この地方独特の割れると断面が板のように薄くなる石によって作られていたのが珍しかった。この山道は綺麗に舗装されてはいるが、急なカーブがいくつも続き、ガードレールがほとんどないので、カーブを曲がるたびヒヤヒヤとした。が、バスの運転手は手慣れて巧みにハンドルをさばき、ヘアピンカーブのように向こう側が見えぬところでは必ずクラクションを鳴らすという慎重さもあった。

 

  Cadaquesの町の少し手前が終点だった。降りてみると、Fiqueras以上に冷たい風が吹きすさんでいる。落ち着いて宿を探す余裕なく、10分ほど歩いてからHostalにあたり、2軒目のHostal MARINAに決める。CalefactionAqua Calienteのない部屋は1000pts。あるのは1300ptsで、今の時期は1300ptsしかやっていないという。仕方がない。ここはHostal Cristinaという(Hostal)宿の隣にあるが、少し綺麗そうなので選んだ。入口のガラス戸を押すと、右側に大きな素焼きの瓶があり、ところどころに民芸調の趣。右奥を覗くと、そこはレストランになっていて、いくつものテーブルの向こうに本物の暖炉が切られ赤々と燃えていた。(それだから、玄関の方まで木の風呂の匂いがする) 部屋は階段を上り下りした複雑な位置にあり、モロッコPachaを思い出させた。ツインベッド、風呂トイレ付き。

 

  窓を開けると、子供の遊び場が下に見える。ベッドは簡素なつくりだが、頭あて、他カーテンレールなど少し民芸調のものを取り入れてある。こざっぱりしているが、少しちぐはぐなかんじ。バスルームはコンパクトタイプ。昼食のサンドイッチとコーヒーを食べる。ぼそぼそしたキャベツのは1つ残された。デザートにオレンジ1個。気持ちを奮い立てて散歩に出る。入江から見て、Hostalの左奥手にある教会あたりをめぐる。ここは雰囲気があるが、新しい建物(同じような様式だが)があるので、土着的な感じが薄く、どちらかというと、別荘地の洗練が窺われる。ちょうどシエスタだったので店はCERRADO

  この前後に、Apartmentos Cameliesの番号を確認し電話をする。薫は火の点検について気になっていたため。おそらく点検していたのだが、番号はくるみが聞き出し、一度アパートに電話をかけてくれた。しかし、慌て者のおっさんが出てきて、電話の交換と勘違いしたらしい。うまく話が通じぬまま、まあおっさんがいて電話がかかるのだから火事ではないのだろうと考える。もうしばらく歩いたのちもやはり気にかかるので薫が台所の電気点検お願いします、としつこく怒鳴ってなんとか理解してもらったようだった。Senorが帰ってからやるということだったのかもしれないが。Hostal近くに戻り、側のPlazaの海から見て右手の道を進んだところで、良いCeramica屋を見つけた。まともらしい絵皿も豊富に置いている。

 

  あまりに寒いので肩をいからせながら宿に戻る途中、道ゆく女学生に薫がこの近くに旨くて安いレストランはありますか?と聞いた。1人が少し考えてすぐに道をこういったところにあるレストランがいいと教えてくれた。Nombre?(名前は?)とくるみが聞くとアニータ・イ・サリータという。いったん店にゆき、カルテを確認して部屋に帰る。カレファクションが入っていないので、くるみが寒がった。あまりにやることがないので、またHostalを出る。入江から見て右手の半島に歩いてゆく。相当に寒く風強し。前方にアベック2名発見。うす暗くなりかけているので、暖かい色のランタンがもう灯っていた。10分程歩き、海に突き出したコンクリートのボート着き場に降りてみてから、急いで引き返した、水はかなり透明で、くるみによるとフランスの海の色に近い。帰りがけになるほど、ここは雰囲気があるわい、夏は繁盛するだろうと気づいた。レストランの時間を聞いてから宿に戻った。(覚書;昼1時~3/7時半~)くるみが寒がったので添い寝をしてやる。

 

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Anita i Salitaアニタ・イ・サリータ食堂の主人

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アニタ・イ・サリータ主人の料理風景


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時頃、レストランにすっとんでゆく。本当にすっとんでいった。風が冷たくて寝起きなので。Dos menu. 薫はsopa de pescado、くるみはcamaloniにする。Sopa de pescadoは銀色の器にたっぷり3杯分入って出てきた。全部薫のものかと聞くと、そうだと言われた。具は白身魚(メルルーサか?)、ムールの身。汁はこっくりと濃く、魚や貝の味がよくわかる。濃いオレンジ色で、塩加減よし。AGUTのよりも田舎風だが、ムールもふっくらと大きく、よくダシの効いたスープで旨し。オレンジ色はピメントンか。だとすると相当多量に入っている気配。これにはトーストしておろしニンニクを塗った小さいパンが小皿に盛られてついてくる。これをスープの中に浸して食べる次第。ニンニクの辛みがピリッと効いてスープの味をひきしめる。カネロニはすぐ冷めてしまったところをみると、もしかしたら冷凍食品なのかな。でも味ボリュームまあまあ。薫はスープを2杯たっぷり飲んで、腹一杯になり、くるみも薫のスープ1杯をおすそ分けとカネロニを広げて、いっぱい。どうせ2°、セコンドは肉焼きのこ付きだろうとたかをくくっていたら、よく煮込まれた濃い味のシチュー風が出てきたので、見ただけで更に腹が膨れた。タレはそれほど多くなく、肉ときのこが丘をなしている。トマトをベースにブラウン色になるまで煮詰めたものらしい。皆が個人プレーをせずに溶け合って味を出している気配。きのこなどこげ茶色になってシチューの味に染まっていた。

  驚いたことに、これに多めの一皿ポテトフライがついていて、最初にはパン1/2本、ビノティント1本分持ってこられた。旨いところはポテトフライまで美味い。カラッとしている。ビノはたぶん樽のもので不思議な味をしている。一度口中に難なく滑り込んだものが口半ばで膨らみを持って広がり、また一つになって喉に流れる、という具合。バター味に似ているが、あの嫌味がなく別の形を取っている。面白い味だが妙ではなく、よく味わうと自然のものが(例えばぶどうの皮とか種周辺とかが)形を変えて味になった、という無理のない味わいがある。この個性をうんと好むというわけではないが、悪くはない。たまにレストランで飲むには安くて良い、ということになろう。パンは湿っていて目が詰まって、たぶん胚芽入りなので少しくすんでいる。モロッコのパンに少し似ている。やっとのことで、のメインの皿だけ食べ終え、ボリュームの少ないhelado(カップ入り市販)をとる。くるみの旅行本企画の話などしてから帰る。

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どうみても蟹。壁面にいきなり付いてる。

 

  その前に、壁にうすレンガ色をしたものがかけられており、「カニか?」と聞いたら「marisco」だという。この海で獲れるものらしい。トリーヨとかいった。色のせいもあり、薫は絶対カニやで、と言っていたが、くるみの思った通り貝やった。これは不思議な飾りもので、頂上の二本のトゲがツノの生えた般若のようでもあり、ふっくらと下ぶくれの形がおかめのようでもある。下手な絵皿を飾るよりはずっと洒落ている。やりすぎると不気味だが。これは仲々センスあるアイディアだ。帰りに売っている店を聞いたら、広場脇の土産物屋にあるかもしれないというが、夏だけなので今はcerradoかもしれないらしい。往きのようにすっとんで寒中の宿に戻る。この間2分、ぐだぐだして寝る前に、水をいっぱい飲んだらすこーし塩っぽいので驚いた。十分に濾過されていない水を供給している。ここはむやみに水を飲まない方がいいようだ。12時過ぎには消燈予定。