鶏の多数吊るしで、カーテンみたい。2月1日火曜日

  今日から2月。9:30起床。薫パン買い、くるみ朝食準備。食料の蓄えがなくなったので市場へ。Paellaをする為の材料他を買い込む。鶏1羽、トマト、玉ねぎ、ムール、イカ。いつもの鶏屋さんで買ったが、今日はいつになく客もまばらでおっさんも元気がない様子。のれんのように吊り下がった鶏の隙間から覗くと「Uno?」と聞いたので、「Si」と答えた。ショーウインドウの中には鶏の足やら手羽やら、解体された本体がたくさん所狭しと並べられてあった。「なあんだ、こうやって(部分を)結構買えるじゃん」と薫。レバーも取り出して、それだけで売っていた。くるみの鼻の辺り、ふんといやな匂いがしたが、あまり気に留めなかった。おっさんは薫が叫んだように「Cortar en trozo por favor」している。そして、いつものようにガラスケースの上に紙を敷き、その上に切った足先やら手羽やらを乗せていく。そしてそれを紙で覆ってゴム輪2つで止めると、「375!」と言った。

 

  くるみが灰色のボール紙のようなもので包まれたその固まりを受け取ってビニール手提げにしまうとき、ふんとまた嫌な匂いがした。鶏の汁が手についたらしかった。「やな匂いがした、ほら」と言って薫に指先を近づけると、薫は嫌がって逃げながら言った。「今日の鶏、ちょっと古くなかった?」そういえば変な匂いがしていたっけ。「俺、切った鶏を並べてたとき、そう思ったよ。いつもは(肉が)透明だけど、今日のは違ったもん。それでおっさんも元気なかったし。」そういえば何故か今日は客が少なかった。「解体したの置いてるのは古くなったからじゃないの?」とまた薫が言う。内臓をつけたままにしておくと傷むからそうかもしれない。客は店にそういう解体物が多くなったりすると、あるいは鼻で嗅ぎ分けたりして、店に来なくなるのではないか、というのは、薫の考え。実際はどちらが先かわからぬが。とにかくおじさんもおばさんもすこぶる元気がなかったことは確かだ。

 

  以前くるみはたくさんぶら下げられた鶏を見て、「こんなにたくさん売れるのだろうか。悪くならないのかな。」と思ったことがあるが、やっぱり生ま物を扱う店では、毎日の客の入りによって随分変動があるものだ。いくら得意の店だからといって、そしていくら安いからといって、(この店198/kg、他の店では210-220/kgが平均)安心してはいけない。まず、状況を窺うこと。これが今日の教訓。

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バルセロナの公設市場、鶏ののれん

 

  香辛料屋でカレーパウダーを買うとき、薫がそばのおばさんに「Ulti-ma?」と聞いたら、おばさんは隣の人を指差した。今日は薫が豊富なボキャブラリーを駆使する日だ。ここの店では、ひとりの太ったおばさんが何か値切っているらしく、口論になっていて、皆はそれを見て笑っていた。店のおばさんはきっとした様子で受け答えしていたが、太ったおばさんはかかかっと、笑っており、余裕しゃくしゃくと言ったところ。客が立て込んでいるのも気にせず、大した度胸だと思った。

 

  それから、牛肉屋で肉を買ったついでにperejilももらおうかと思っていたのに、遅く来たせいか、もう残りはなく、困ってしまった。そうしたら、薫が太くて長いperejilはタダでくれるが、八百屋でもそうだとは驚きだ。そういえば以前、perejilをかおうと思ってあちこちの八百屋で聞いたがなく、ある八百屋で明日来たらあるよ、と言われたのを思い出した。あの店でもくれるつもりだったのかあ。家の近くで摘み取ってきたにしろ、一銭も金を取らないなんで大らかな話だ。今、もらってきたperejilシャンパンの瓶にささって置いてある。アパートに戻って昼食のカレー。あとはパン。特別書くべきことなし。

 

  食事の後片付けをそそくさと協同作業で終えてから、Glarias Preciadosへ向かう。行きはmetroを使った。昨日買ったカセットの返品の為。勢い込んでいくと、もうすでに先客がいて、なんだか封のしてあるカセットテープ4本を前に、しきりに喋っていた。あ、私たちと同じような客かなと思っていたら、どうも聞かせろと言っているらしかった。しばらく口論のあと、売子嬢がふうとため息をついて視聴させていた。ちょっと気勢が削がれたが、売子嬢の「なに?」という問いに答えて、テープのことを切り出す。例によって知っている単語を並べただけの説明。売子嬢はこれは映画音楽だから、ライザミネリのソロではないし、他の人の歌や音楽も入っているのだ、と言った。(なるほど、それはそうなのだが。)しかしタイトルには、背にライザミネリと大きく銘打ってあるし、そんなことはわからないではないか。彼女曰く、封を開けてしまったら取り換えはできないのだと。それもっともなのだ。でも、と粘って、テープを聴いてもらうことにした。1曲目は他の男の人の歌しばらくしてライザミネリ。ここで彼女はボリュームを上げた。これは聞こえよがしな感じがして薫は嫌だなと思った。くるみはまずいなと思ったが、「10曲のうちの4曲しか歌っていない」と言ってあるし、まあ、そりゃライザミネリが出て来なかったら詐欺だもんね、と居直りつつ澄まし顔。テープを突き返されたらどうしようと思いながら、受け取らぬようにしていると売子嬢はもう一度何回か繰り返した言葉を口にした。開けてしまったら返品できません。でもこちらが何か言おうとすると、それを聞こうとする姿勢が見えたので、「上部の人と話したい」と言ってみた。彼女はすぐに頷き、しばらくして身体のがっちりした男の人と一緒に勇ましい足取りで戻って来た。その男の人も同じようにテープを開けてしまったら返品不可能だということを言い、横から売子嬢が映画音楽だからと付け加えた。もう取り替えてもらえないかもしれない、という絶望的なかんじはあったが、くるみは尚も頑固に「表には(映画音楽だということや、他の人の名前が)書いていない」と頑張った。

 

  何回か言葉のやり取りがあったのち、急に売子嬢が「Cual?」と聞いた。どうもどれと取り替えたらいいの?と聞いたらしかった。突然向こうが折れてしまったのに驚いたが、とにかくパコ・デ・ルシアのと換えてもらうことにした。875pts(前のと同じ値段)でなくではいけないと言ったが、欲しいのが815ptsだったので、差額は捨てるつもりでぜひともこれを、と言う。疲れてしまったのか、彼女はそれを持ったまま、レジへ行き書類を書いて交換所に行き、係りの人に声をかけて書類と現物を置いた。ここで戻らないと思った釣り60pts(本当は15%rebajasだから52pts)も返って来た。それにしても、もうダメだと思ったのに何故急転回したのだろうか。薫によると、くるみが泣きそうな声になっていたからだというが。それにしても無理なことを言ったのに、最後まで根気強く説得しようとし、別れるとき「Adios!」という挨拶をするとは、売子嬢は相当親切で且つタフな人と思った。

 

  一件も落着したあと、ここのスーツケース売り場も見、良いのがなくて、El Corte Inglesへ行った。結局かさばりすぎるというので保留。カーテンも幅が狭い生地のため、もう一度考え直すことに。ついでにここのバーバリーを見た。Made in Spainで安いが(ウールスカーフ1600pts )、あまり品質がいいとは思えぬ。何でもこの地に来ると、ダサくなってしまうのだろうか。

 

  歩いてアパートに戻る。途中、passeig de Graciaを北に下った角のBarCCLとカスタードクリームパン1個食す。合わせて170(CCL;50, パン;70)と高し。場所だけで持っている店で、じいさんばあさんおっさんおばはんという親戚一同でやっているようなところだ。また、DiagonalPdgraciaの交わったところあたりのNowやさんに入った。ここは調理用具他食器類を主に扱った店で、他に電気照明や家具も少し置いている。シンプルでモダンを目指した店らしく、スペイン的田舎っぽさはあまりないが、全体にかなり高い。ここでドレッシング用の瓶を見つけた。小ぶり透明のガラス瓶の先にコルクがついており、そのコルクに金物の管が差し込んであるので、そこから少量の液体が出てくると言う仕組み。ニースPIZZA屋さんではワイン瓶にこの栓がしてあって、仲々感じ良かった。この栓だけ、もっと安い値段で買えればいいと店内を探したが、見当たらず。もう一つ三角フラスコの先にガラスの管をつけたような瓶も見つけた。これもかな高。

 

  上り坂をふうふう言いながら上ってアパートに着く。取り替えてもらったパコ・デ・ルシアのカセットを聴きながら、鶏の解体作業にかかる。このカセットは仲々よし。今夜はパエージャなので、その準備にかかる。フライパンが小さいので、今回は2回に分けて作ることにした。材料はいつもの通り、今日は鶏肉の他に、イカ・エビ・ムール・牛肉が入ってゴージャスだ。下ごしらえを終わって、薫大先生におでましを願い作っていただいた。サフランを多めにしたので、いつものより鮮やかにはなったが、それでも写真に見たり、店で食べたりするのに比べるとずっと色が淡い。ムールは別にワイン・レモン蒸しに、イカとエビは一緒にワイン・レモン煮にしておいたので、生臭さなどなくよかった。ムールの身もふっくらと大きく良心的。油を多めにパプリカもたくさんふった。だいぶコクのあるパエージャとなった。これを食べ終え、しばらくして2回目にかかる。2回目のは非常に黄色が強いと思ったら、ターメリックサフランを併用したとのこと。大分店のパエージャの色に近づいたようだ。味は先生自信の作だけあって、バランスよし。塩味を1回目よりも濃くし。油・パプリカを控えたとこのこと。最近仲々味も安定してきてよろしい。くるみはやはりご飯党なのか、こういう味付きのあったかいご飯を食べると、お腹もあったまりほっとするので、パエージャが好きだ。二人交代にガーガー音をさせて風呂を浴びる。疲れて床につくのは2時近く。明日は休息日。