帰国便の予約で手こずる・・・1983年1月18日 火曜

  昨日、フランスのことを嫌いだ!と言った夢を見たのだ、と薫に言ったら、そんなことは

人に言わない方がいい、ちょっと外国に行って来たからって思われるぞ、とたしなめられた。

 

  パンを買いにゆくつもりだったが、余っている堅パンでフレンチトーストをして、カフェで食べた。今日も又、IBERIA航空に行かねばならない。時間がないので、メトロに乗った。車内は混んでいた。思いついて、Passeig de Gracia(元、Gran Via)で降りてみたら、やっぱり

オフィスに近かった。例の少しスケベなおっさんが担当だった。コンピューターで呼び出すと、paris-Karachiは、OKだが、Karachi-Tokyoが、waiting listだと言う事だ。

 薫案の、Paris-Frankfurt-Karachi-Tokyoを見せたが、ひとつしかインプット出来ないらしく、1週間待ってみて駄目だったらという、気の長い話。

さっさと、渡したチケットを畳んで寄越したので、しぶしぶ立ち上がって、背後を見ると、髪の長い、若いスペイン娘っ子が立っていた。

我々には、金のあるうちに日本に帰れるか、帰れないかという大問題である。どんどん時間が

過ぎてゆき、予約で埋まってゆく懸念があったが、仕方なかった。

 

  ペンと日記帳にするノートを買いに、百貨店、El Corte Ingresへ行き、次にSimagoへ。

それでも、ましなのが無いので、Galeria Preciadosへゆき、探したら少し変わった小冊子があり、絵違いのを6冊購入。スペインにはちっともまともなノートが売っていないので驚くばかりだ。これは、1冊9pesetasと安く、表紙は薄っぺらい紙だが、色々な動物の絵と説明がある。日本に帰るまでには事足りるだろう。

 

  旅行鞄を買いたいのだが、革製だと25000pesetas位、ビニール製だと3000pesetas、ランセルのような丈夫なナイロン製で6000〜12000pesetasというところだ。Paris製の

ランセルはしっかりした造りで11500pesetas。バーゲンで10685だが、いつまで安いか

分からないと脅す。頭に刻んだだけで、買わずに店を出た。

 

  もう、ふたりとも空腹のためか、風邪の疲れでくたくたになっていた。昼ごはんの為、家路を辿る人々で混雑した地下鉄に乗って、やっとアパートにたどり着いた。

 

  昼は、昨日煮ておいたムール貝、スパゲティ・カルボナーラ、生ソーセージの焼いたのと、キャベツの炒め物。食後にマセドニアフルーツ。食べ疲れでまた、どっとベッドに

倒れ込んだ。人間は基本、自滅する。しかし、日本に送る書籍小包の分類や、小遣い帳などつけてゴタゴタしているうちに、あっという間に午後5時になり、慌ててスーパーマーケットにゆく。すぐ閉まるからだ。ソース、パン、牛乳卵を買うつもりが、ついつい買い込み、ビニール袋を抱えて帰るはめになった。この分だと太って帰国しそうで、嫌だなあと思う今日この頃です。

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  <昼のカルボナーラの反省>

* ぼんやりして作り方を意識しなかったので、再度要点を以下に記す。

 

①  多い湯で、スパゲティを堅めに茹でる。

②  サラダ油でベーコンをカリカリになるまで炒める。油は少々。

③  一方、卵、全卵を溶いて備える。

④  スパゲティが茹で上がったら、ボールに移し、好みのバター一片とカリカ

ベーコンを放り込み、かき混ぜる。この時、軽く塩も振っておく。

次に、とき卵をいれてかきまぜ、粉チーズ(パルミジャーノレッジャーノ)と黒胡椒をたっぷりふりかけて食べる。刻みパセリを派手にばらまくも良し。

 

  <くるみの出納帳の利用法〜都市別物価早見表の作成>

①  パン、ミルクといった主要製品ごとに、各都市の物価分布を落とす。

②  分布を示す点には、良い製品には○、うまくない物には×の印、或いは、

色分けをし、物価の高低とその質の評価が、製品別、都市別にみられるようにする。

 

  これを書いている最中に東中山の母親から電話があった。日本の交換士に頼んでかけたらしく、薫がそれを受けたのち、くるみに替わった。

  母親は電話の向こう側で、蚊の鳴くような声で、”く る み?”と言った。マルセイユから送った荷物が届いた事、しかし、それは破られていた事、手紙が着いたことなど、小さな声で話したが、いつになく泣いたあとのような震え声なので、何かあったのかと思い、

”どうかしたの?”と聞くと、今3時で起きたてだからじゃないの、”と答えた。

  このあと、気候はどうかとか、いい間取りじゃない、とか言ったが、薫ちゃんは?、薫ちゃんは?と、しきりに聞くので、仕方ないので替わった。数言、言葉を交わし、電話を切る。

 

  元気のない母親の声に、今まで以上に心配させられたくるみであった。電話を切ってからも、しばし、どうしたのかなあ、何かあったのかなあ、と気を揉んだ。

  薫にも泣き声のように聞こえたらしいので、多分、夢か何かを見て電話をかけたのだろうという話しになった。それにしても、父親は元気なのかと一言聞けばよかった。そうしたら、

今、こんなに心配せずに済んだのに。手紙を待つしかないか。

 

  くるみがしょんぼりしているので、薫が夕飯の支度をしてくれた。今晩はとんかつにするつもりだったのだ。彼は教えられたとおり、ためつすがめつして眺めながら、丁寧に塩を

振りかけ、胡椒をまぶし、割れ物を扱うような指先で、パン粉をまぶしていたのが可愛らしかった。豚の揚がるよい匂いが部屋に立ち込め、もうすぐ、とんかつが出来上がる。

 

  さて、とんかつも良い色に仕上がったところで、刻みキャベツのソテーとともに夕食にしよう。只今ばかり人生は存ずるなり!  只今、バルセロナの午後9時41分。

 

  追伸、この地のキャベツは日本のよりずっと甘い。これがキャベツだ、と吉田健一なら言うか。昨夜、くるみのsopa cinaが甘かったのは、醤油の甘さもあるが、キャベツが甘かったのが主因だろう。ここから連想したが、日本は、鶏、卵の順は不明だが、調味料が発達している為、素材にやや鈍感になってきたきらいがある。逆にスペインの味付けは、塩、オリーブオイル、トマトが主で、素材にかなり頼り(それが当たり前だが)、良くない材料だとてきめんに料理に反映すると思う。つまり、余計な手練手管は発達していない分だけ、素材に敏感であるかも知れない。しかし、角度は違うが、くるみは思う。なんで、スペインのマカロネスや、スパゲティはあんなに甘いのか・・・これは別問題であり、好みの問題でしょ、と言うことになる。

 

* 特に、旨いと思われるスペインの料理材料(対日本比)

  いか・・・特にチビイカ。味が濃い。

  エビ・・・ガンバ、という体長8センチ位の。

  オリーブ・・・つまみには、グリーンの。料理には油の濃い黒を。

  キャベツ・・・愛すべき甘さ。

  オレンジ・・・ナランハ。新鮮な濃く深い甘さ。

  シャンピニオン・・・安くて旨い。パスタソースにも最適。

  卵・・・新しくて黄身が盛り上がっている。橙色をしていて如何にも旨そ。

  肉・・・比較にならない。牛肉も豚肉も鶏肉も断然、新しい。大体が大きな

      かたまりで置いてあり、買ったらその場でカットしてくれるところが違う。

      牛肉のきめ細かさは日本の方が上か。こちらの牛肉は鮮紅色。

  いわし・・・目が違う。ムールも殻が山積みになるほど旨い。