ガウディのパルケ・グエル散歩 1983年1月6日 快晴

  9時前起床。薫のみParque Guell(グエル公園)に散歩。casa de postaleの脇を通っていたら、間違えて胸を突くような坂に出てしまった。どうも公園の東に当たるところだったらしい。Larrad通りに入り、坂を登ると公園があった。近くのBarのにいちゃんだけが店の椅子を出したり準備をしている。ジョギングの青年を除けば、散歩者は私、薫のみ。

  FIESTAで途中の店屋は大概しまっていたが、Barは数軒開いていた。

何とは無しに客たちが居る。スロットマシンに張りついたりしている。朝日は30度くらいまであがっている。

 

  日に照らされたグエル公園の陶板は、割れた破片をバラバラにコラージュされ、渋く多彩な模様をみせて構成されている。予想通り、朝早くは光線が透けており、モノも朝露で湿気を帯びているせいか、きれいに見える。

  1900年代の初め、画家の資料の為に写真を撮って売り始めたAtget(アッジェ)がParisの街を朝、誰もいないときに撮って回ったのも道理だ。ここバルセロナでは陽の昇るのが

遅く、おそらく8時前後なので今時分でも早い部類にはいるのだ。

  すっきり見える陶製の爬虫類の顔やら、地面からの柱で支えられた公園の運動場を取り巻く、奇妙な陶製のうなり囲いやらを接近して撮ってみた。矯めつ眇めつしながら、写りようを

考えたりした。

  赤いヨットパーカーを着た白人の女の子もやって来た。一人で衒いのない顔をして俺よりは

早く見て回っていた。風船屋のおじさんがパルケグエルの運動場に簡易売店を作っていたが、今日ここで何かあるのか。Fiestaの散歩者を狙ったものか。

  太陽光線が風景を普段のようにありふれて照らし出した頃、帰った。風景の表情がつまらなくなったので、去った。

 

  帰りがけ、幹線道路を右手に折れて、回り道した。サッカー場(en Espana Futbal)に人が集まりかけていた。休みには何らかの試合があることが多いようだ。スペインのサッカー熱はすごい。入場料は、150と100pesetas。Senoras、ご婦人方は100とある。潜在客の開拓か。女性サービスか。

 

  Alfonso Xを少し下った辺りだが、手打ちスパゲティ、トルテリーヤ、ピッツアの店を見つけた。モダンな店構えで、唯一あった味付けパンが200pesetasもしたところを見ると、高級店だろう。一度賞味しよう。パンを買って朝食にしたかったが、どこもcerrado(閉店)

 

  アパートに戻った。くるみは寝ぼけ顔で暗がりからドアを開けてくれた。外で音がする度にドアまで行かなければならなかった、と言う。風邪気味だと言うに、こちらでぽんぽん言っていると、”金魚みたいに死んでも何とも思わないんでしょう!”と言って、金魚の真似をして見せて、その後、あまりに邪険だ、と言ってちょっと泣いた。

  しばらくして気を取り直して、トルティーヤ・エスパニョール(スペインオムレツ)を

作ってくれた。わしはエスプレッソの準備、シャンパンのラベル剥ぎ。朝食は昨夜作っておいたきのこ2種のオリーブ煮、いかのワイン煮に加えて、cafe con leche、干からびたパン、

トルティーヤ・エスパニョール、これに極安のVINO。食後にはデザートとして、フルーツサラダを食した。なんと上品な食事か。これで昼食も兼ねる。

 

 <きのこ2種、恐怖の電熱オリーブ煮>

材料、マッシュルーム4つ、オレンジきのこひとつかみ(くるみの手で)ニンニク2片、オリーブ油たっぷり、ワイン酢3滴、塩3振り、白ワイン少々。

オレンジきのこは洗った時に水を多く含むので、軽く絞って入れる。

 

  <いかのワイン煮>

材料、5センチ位の小さいイカ10杯、ニンニク2片、オリーブオイル大さじ2杯、塩少々

白ワイン20cc。なにせ、イカの味が濃厚なので、誰がやってもうまくいく。

 

  最後に。cafe con lecheについて。

 だいぶ分量の加減がわかって来た。家庭用エスプレッソメーカー(イタリアのおっさん印が上等)の下部にねじ穴様なものがあるのだが、その下辺りまで水を入れ、漏斗型の底面に細かい穴の開いた粉入れの底面から八分目くらいまでぎっしりと珈琲豆(うんと細かく挽いたもの)を詰める。スタンパーでその粉を押せば良いが、ないからスプーンの背で押す。

 これで出来上がった珈琲も、バールの大型エスプレッソマシンで出すのよりやや薄いが、

あと好みで熱したミルクか、その泡状のものを掛け入れればよろしい。家庭用がやや薄いのは

圧力が低いためだろう。おっさん印のイタリア製のメーカーは3人用で2000円位と、高い。

 

  イタリアのバールでは、様々なメーカー名の機械を使っていたが、スペインでは、GAGGIA製がかなり多いようだ。さて、そろそろ昼休みとしよう。

 

  さっき昼食を食べたばかりなのに、何故か口寂しい。お茶を飲んでも物足りないし、と思っていたら、実は甘いものを欲しがっているのでした。薫に言いつけられて、ただ一人でケーキを買いにゆきました。今日はじめて表に出るせいか、また一人で歩いているせいか心許ない

感じです。横断歩道の向こう側にいる眼付きの鋭いお兄さんや、サッカー場の前のねずみ色の

箱にこびり付いたポスターの跡を指でこりこりと掻いているおっさんや誰も彼もが怖い人に思えて、うつむいて歩いてゆきました。横断歩道を渡る時も轢かれそうな感じがして、いつもの

倍注意しました。身体が弱っていて気力も衰えているのでしょうか。あまりに身軽なため(鞄も何も持っていない)感覚がどこかしら違うのかしら。

 

  とにかく、ケーキ屋さんは開いていました。今日はFIESTAの為、その菓子がウインドウにも店内にも大部分を占め、主役になって飾られていました。丸く焼いたスポンジをふたつに横割りにして生クリームが挟んであるもので、上にはチェリーの砂糖漬けやピールなどが絵に描いたように乗っかっていました。くるみはあまり好まないので、横のケースにあるケーキを4

種各一個づつ買いました。300pesetas。あまり日本と変わらない値段。無駄遣いしちゃったなあ。お金を払う時、ケースの上を見たら、りんごの細長いタルトが載っていたけれど、それも旨そうでした。それは275pesetas。こっちにすれば良かったかな、まあいいや。

 ケーキを提げてアパートの入り口を入ろうとすると、向こう正面から二人のアベックが歩いて来ました。アパートの人かな、と思いながら、ドアを押して先に入り、先ほどまで姿の見えなかった愛想の悪いにいちゃんに、”オーラ”と言うと、背中の方でかすかに”オーラ”という声が聞こえました。階段をとんとんと急ぎ足で上がり、下を見ると、先ほどのアベックも階段を

話しながら上がって来ました。あれーっ?もしかしたら隣の人なのかなと思い、部屋のベルを

押してドアの開くのを待っていると、彼らも隣のドアの鍵をあけて中に入ってゆきました。

女性は小柄、男性は細く長身のスペイン人でした。”オーラ”と挨拶しました。

 

  ケーキを買って来たので、薫くんにまた得意のカフェ・コン・レッチェをつくってもらう

ことにし、二種類のケーキを半分づつにしました。片方はチョコレートケーキで90pesetas。

もう一方は細長いシュークリームで上の砂糖が飴の様にカリカリする。70pesetas。

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  今回のCCLは上手く出来たので、薫は大はしゃぎでした。よかったね、ふんと。久しぶりの甘いものにも大満足しました。しかし、高いなあ。もっと安いケーキ屋を開拓せねばなりません。

 薫いわく、外人がデザートで甘いものを異常に欲しがるのは、料理にあまり砂糖がつかってないからではないか、と。そうかも知れません。なぜか日本を離れてから、やたらに甘いものが食べたくなります。疲れているせいもあるのでしょうが。3時のお茶も過ぎて、くるみは

スペイン語の勉強に取り掛かりました。はじめは香辛料の名を辞書で引いていたのですが、あまり載っていないので、今度はsegoviaでもらったパンフの料理の作り方を訳すことにしました。やはり、これも(料理用語などはあまり載っていないので)難しく四苦八苦してやっと

ひとつだけいい加減な訳をしました。これだけやっただけなのに、もう時計は6時をまわり、

薫が腹へった、腹へったを繰り返し、くるみも風邪のため元気がないので(喉が枯れている)

夕食の支度に取り掛かりました。

  今晩はカレーの残りを平らげようとしたのですが、米が中途半端なため、明日の昼に回してスパゲティの擬似焼きそばを作ることに。しかし、これもフライパンが小さい為、スパゲティの上に醤油味の野菜炒めを乗っけたものになってしまったのでした。あっさり食べ終わり

薫は残りのご飯でカレーをたらりと掛けて食べ、くるみも横から少しつまみ、イカのワイン煮

きのこの油漬けを平らげ、サラダフルッタをデザートに食事を終えました。

  何度も書くようですが、この頭の丸っこい小さいイカは実にいい味をしているのです。

大きなイカとちがって肉厚でない為、いくら煮ても固くならず、おまけにはらわたや墨も

一緒に煮ることになるので非常に濃厚な味をしているのです。オリーブオイルが味を引き立てているのかも知れません。日本でも出来そうだぞ。形もぷりっとしていて、いかにも食べて欲しそうなのであります。イカの話しばかりしていても仕方ないので、そろそろ寝ます。

  明日でここのアパートに入って1週間。遅いような気がしていたけれど、あっという間に

1ヶ月経ってしまいそうな気もします。あしたはもう少し動くぞ。おやすみなさい。