Feliz Navidad! バルセロナ ランブラス通り12月25日 土曜

  午前6時過ぎ頃、ジングルベル、ジングルベル!!というラジオの音で眼を

覚まされてしまった。音の出所は通りかと思ったら、部屋の隣りだった。

 薫が廊下に顔を出し、うるさいぞ!と怒鳴る。少し静かになったと思ったが、又

しばらくすると音が大きくなった。隣との境の壁をどんどんとゲンコで殴り、大分

音は治まったが、朝起きた時には拳骨が痛くなっていた。

 

  今日はクリスマスで、どこの店も休み。通りは静かで、人影もまばらである。

いつもの様に11時頃起き、一階に鍵を預けにゆくが、おっさんの姿は見えぬ。今日も

宿探しの日なのに、朝食を摂るためのバールはどこも大抵休みだったが、駅のカフェテリアと、Ruzafa他1〜2店は開いていた。値段を調査した上で、Ruzafaに入る。トーストはやっておらず、ペーストリーとミルク入り珈琲。ここは45pesetasと高し。にいちゃんにパスタを指していくら?と聞いても答えないので、薫はぶすっとしている。この店はテーブル席受け持ちの人と、カウンターの方と分担が違うらしい。このにいちゃんは愛想悪いと思っていたが、

もう1人居るじいさんの背中に隠れてみたり、サヨナラ、アリガトと言っておどけてみたり

気分屋なのかも知れない。

 

  駅近くの公園には皆が続々と出掛けて来ていた。ここには動物園があるので、クリスマスの日の子供孝行なのだろう。以前ここに来た時には、オレンジの樹に実が成っており、ひとつ

取ったりしたが、今はもう全て丸裸になっている。もう12月も末だというのに、陽射しは強くて暖かい。動物園の前には切符を買う人の列が出来ている。今気付いたが、丸裸になっているのはオレンジではなかった。

 

  いったん、宿に帰ると、おばさんが大阪からの手紙を手渡してくれた。意外だった。急いで部屋に戻り、ふたりして読む。パンチ穴の空いた一枚の紙に父親が書いている。仕事場の紙だろうか。筆もいつもより急いでいるように思われた。家族や商売のこと、正月の過ごし方を要領良く書いている。下の余白に母親が走り書きでETブームに触れていた。いつもより親切が

表面化しているようだ。親より親切なもの有難し。

 

  Ruzafaにて昼食。定食ふたつ。メインのラムカツレツは、薄いピンク色をしており肉とは

思えぬほど、やらこい。(柔らかい)ミンチかと疑う。途中で薫が、”これ本当にラムか?”

と言ったので、少々気味悪くなる。くるみの頭の中には、かわいいウサギの姿が払っても払ってもまた現れた。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏

 

  食後の散歩でランブラス通りの方へ行きかけたが,あまりに人通りが少なく異様な人々が

ふらふらしているので、眠った市街地をあとにする。或るおばあさんなど顔にパックをしたままナイロン袋をぶらぶら下げて歩道をうろうろしていた。乞食や目付きの悪いのも見かけた。

 

  宿に戻ると、マタスのおっさんがいたので、アパートメントの相談をしたように思っていたが、うそで、話したのは昼食にゆく前だった。色々と聞いた結果、27日まで祝日が続き、動けるのは28日からだと言う。結局、28日いっぱい探し、見つからなければ31日以降に伸ばすことにした。金を出せば、この間のARAGONで快適な生活を送れるが、金がない上、まだ二、三ヶ月も滞在するので、おっさんの言うように粘ることにした。スムーズに事が運びそうな時も、何かと波立ってくるものだ。

 

  宿に帰ってもやる事がない。料理の本があっても、部屋が薄暗く、とても読めない。

眠ると胃がもたれる。横たわったままだと寒くて風邪を引く。音を聞きたくても我々が喋らない限り、何も出てこない。遭難に遭った人の様にただ眼を開けてじっとしている他ない。

 

  街にはクリスマスの照明だけが光り、人通りもない。この宿の三階には誰もいないように

静まり返っている。薫は手足を動かしたり、放屁したりして退屈しのぎとし、くるみは焼かれた子豚の様に丸くなってベッドに横たわる。しかし、気分は散じない。夕食には早い時間だし

眠ってしまうと、夜寝られなくなる。今まで忙しい生活をして来たせいか、恐ろしく暇な時を

持て余している。

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  8時前だが、とにかく何かしないと気が済まないので、ものを食べることにした。寒くて暗い、しかし主人は親切なペンション・マタスを出て、再度RUZAFAに逃げる。

 平日より客は多い。テーブル席の5分の1ぐらいがふさがっている。皆の様に祝日には、paellaにする。これに、vino de mesa1,botella,ensalad各1。この間記したので省略するが、

やはり田舎風で出しが多く、おじやのようだ。

 

  実は、この段階でやっと現実の時間に日記が追いついてしまった。vinoが多量に脳髄に流れ込んでいるので、寝るまでのことを書いてしまうことにする。

 

  宿に戻ると、おっさんが痙攣らせたような親切な顔で、からだを斜めにおり曲げて挨拶し

鍵を持って来てまた丁寧にお辞儀をした。スペインでもお辞儀の習慣はあるんかいな。

子供が飛行機を飛ばしたら、薫の頭に当たった。げんこつでお返しした。おっさんがボタンを

押して部屋のあるドアをびいいーと開けてくれた。何であくのかなあ、と思って扉の接触面を見ていると、金属のポッチがあったので触ってみた。とたんにビビビリっと激しい衝撃が伝わり、心臓がちぢみ、薫は気を失ってしまった。くるみは、あほだなと思いながら、足首を掴んで引き摺ってゆき、ベッドに転がしておいた。もう、夜も遅いので、靴下を脱いで、歯を磨いて寝よう。薫の唇からは一筋、血がしたたっていた。