前にインフォメーションで聞いていた850ペセタの宿を目指す。途中、BETANZOZ
手前の三角コーナーのバールで朝食。やっぱりスペインのcafe con lecheはおいしい。
3B,トレベ、三拍子揃ったという宿、JACINTAの入り口は壁が剥がれ落ち、階段も木で
何となく怪しげである。ベルを押して長い事待つと、訝しげな顔つきの婆さんが現れた。
部屋を見せてもらう。
まだ片付けてる最中らしくベッドがひっくり返っている。部屋はそれほどきれいとも
思えず、、婆さんの感じも余りよくないので考えると言うと、ドアのところに待ち構えて
いて即座に追い出された。これが3Bなんてよく言うよ。いつものように薫がバッグの
番をし、くるみが辺りの宿を当たる。
ここは宿の数がものすごく多いので、穴場狙いをするため、きれいそうなところだけ
選んで聞く。1000pesetas(シャワー付き)、1200pesetas(プライベートシャワー、WC付き)、800pesetas。800pesetasに決める。
昨夜は夜行だった割に二人とも元気なので、街に出かける。中華料理屋、馬徳里がいまだ
開店していないので、待ち兼ねて、MADRIDという店へ。
地味な建物の二階にあり、電気もついていず、暗い。窓際のテーブル席に掛けオーダー。
ここは定食メニュー、225pesetasしかやっていないのか、他の一品料理の品書きがない。
窓際の小さなテーブルは同じ方向を向いて坐る様になっているので、電車に乗っているようだ。
来ている人は老人が多く養老院のようだ。
薫は、sopa al cuarto,patatas con carne, pollo asado con patatas,flan.
くるみは、caldo especial,cocido Madorileno,bistek con patatas,heladoを注文。
飲み物は、VINO.これは500ml入りの瓶に入ってきたが、一見してここの店で
仕入れた樽詰めワインを瓶に詰め替えたものであることが、ラヴェルに出来ている
幾筋ものワインの涙でわかった。もちろん、悪いことではない、むしろ新鮮なことの
証明だ。日常的に生活の中で楽しまれてきた食習慣を素直に表している。味も高級品ではないので、深みは求められないが、酸っぱさが自然だ。
最初の皿が来た。薫のは野菜と少量の貝が入ったポタージュ風。くるみのは
バター味のスープ。安食堂にしては味付けはまあまあである。
次の肉入りポテト煮、トマト味も結構いけた。
しかし、くるみのcocidoは、例の頭のとんがった豆と野沢菜風菜葉、茹でじゃがいもで、あまりにもあっさりし、且つまたポテトと豆の大合唱なので、へきえきした。薫は面白がって
”くるみだけまだポルトガルに居るみたいやなあ!おれのは正解やなあ!”と
何度も冷やかした。
全く西洋人はどうしてこうも豆と芋が好きなのだろう。
3番目の皿の鶏肉は、リスボンの名店、Bon Jardinのとは大違いで、痩せた足が
一本細々と乗っかっており、数本のフライドポテトが添えてあるだけだった。
bistekは意外にも大きく薫の羨望の的だったが、いまいち味が淡白であった。
flanもheladoもいまいち安物風であったが、まあこれだけ食べて225pesetasは安いと言えるだろう。
うまい頼み方をすれば結構満足できるかもしれない。
店を出てプラド美術館に向かう。
プラドは高い木立に囲まれたセンスのよい建物だった。二階建てで、厳めしい彫刻があまり外壁についていないのもシンプルでよかった。宗教画や静物画をひとしきり見た後、有名どころ
前二者は、いくつかの部屋が彼らの絵だけのために設けられている。
ゴヤは思いの外、幅の広い画家である。フランシス・ベーコンばりの暗い情念の絵もあれば
少年小説の挿絵風のもある。なかなか新鮮で新たな関心が喚起された。
ベラスケスは前々から瞠目していたが、想像を上回るものがあった。まさに、
marvelous!! 宮廷画を描いていながら大胆な構図や微妙な色調で、現代にまで
突き抜けるスケールがある。このふたりは大いに見応えがあった。
ボッシュのは日本であまり見たことがなかったが、なかなか不気味で、
気色悪い面白さがある。洞窟の中で蝋燭の明かりを立てて虫眼鏡で見たりすると
さぞワクワクするだろう。女性器の恥丘にカエルが張り付いたのがいくつか
あったが、あれはナニをしているのか。蛙が兜を被ったのや、おんなの上半身を
食ったのやらがあった。くるみはこんなのを描いて罰せられないのだろうか、と言った。
テンペラ画の中には、不気味な怪物どもの中にキリストが描いてあったので
揶揄のつもりかなとも思った。
最後にエルグレコも見たが、あの弱々しく呪うような縦長の顔があまり好きでない。グレコの中にはセンチメントでジャコメッティの彫刻に似た絵もあった。考えてみれば
ジャコメッティもセンチメンタルと云えなくもない。
見ている最中、あちらこちらで小中高校生が旅行か授業に来ているのに出会した。
絵より我々の方が珍しいようだ。閉館の5時に出る。
この辺りの通りは高級屋が多く、とても30や50pesetasで珈琲を飲めるバールなど
ありそうにない。歩いて探す。
客の入りの良い新しめのバールでChocolate con lecheを注文。案に相違して
出てきたのはトロトロのポタージュのようなチョコレートであった。スプーンですくうと
糸を引くほどである。lecheも入れてあるにはあったが少しで、スペイン人はこんなのを飲むのだろうかと、訝しんだ。喉の乾きが癒せないので水をもらった。
スーパーマーケットに入り、ノートと消しゴム、ペンを買い本屋を探して歩く。
大きな本屋が見つからないので、ウインドーをのぞいていた眼鏡をかけた学生風の
女の子に声をかけた。くるみが、ただ、”PERDON"(すみません)と言っただけ
なのに、びっくりした顔をしたこやつはきつく、"NO!"と叫んだ。言葉が
分からないと思っているんだな、ともう一度、ペルドンと歩み寄ろうとすると、
ぱっと後ろに飛び退いて、またしても、”NO!"と叫び曲がり角に消えた。
呆然・・・人の姿を頭からつま先まで見た目つきといい、断り方といい、
あまりに失礼なので憮然としていると、今度は友達ふたりで共に現れた。
薫は懲りずに声をかけた。本屋は何処にありますか?すると、こやつらは
一斉に、ティエンダー!と叫び(この人たち読めるのかね、と言う調子で)
どんな種類かと聞いてきた。薫が、辞書だと言うと、先の奴はへーんな顔をして知らないと言い、ひとりがここをまっすぐ行ったところ、と無愛想に答えた。
グラシアスと礼を言っても、無言で立ち去ったのにも腹が立った。学生と見込んで
声を掛けたのにあまりに無礼な。東洋人と馬鹿にしてのことなら、外国で逆の
立場になったら嫌な思いをして初めて思い知るだろう。
当たり前のことだが、何処の国の人でもいろいろな人がいるものだ。
中華料理屋へ行ってみたが、また閉まっていた。近くの親爺に聞いたら8時か、8時半に開くそうだ。一旦宿に戻る。ここは部屋の鍵と一緒に表門の鍵も持っていいことになっているので気が楽だ。しばらく休んだ後再度出かけた。看板に灯りがともっているので一安心。
外見より奥行きの深い店内できちんとテーブルセットがしてあった。
薫は325pesetasのセットメニュー、くるみは焼きそばを頼む。メニューはとろみの
ついた卵スープ、ほくほくの鳥角切り肉入り野菜炒めにご飯。飲み物はビール付き。
卵スープも野菜炒めもとても美味しく大層喜びながら食べていたのを、くるみは横目で
見ながら焼きそばをもくもくと食べた。久し振りに食べる焼きそばも野菜炒めも胃に優しく
美味である。薫のお情けをもらいながら、尚且つ満たされないくるみはチキンカレーを追加注文。大盛りのご飯の上に少しカレーの香りのついた野菜炒めが載っている。満腹で店を出、
宿に戻る。宿と旨い食べ物がある生活はいいな。明日はトレドへ。